昔の原稿2003年8月版(迷惑メール)
2003年8月に書いた雑誌用の原稿です。ご参考までに。
なお、当時の法律等に基づいていますので現在の法律や判例、ガイドライン、解釈と異なる可能性があります(12年前とは結構変わっています)。
あくまで「過去の原稿」ということをご了承ください。
> Q.1 迷惑メールを規制する法律ができた後も、迷惑メールは来るが
> 違法ではないのか?
1 規制に至る経緯
従来のダイレクトメールと異なり、切手代や印刷費用のかからない電子メールを利用した広告は、広告を送る側からすればコストや手間を大幅に削減できる有効な手段といえます。しかしながら、送信先の同意を得ないで大量、無差別に広告、宣伝、勧誘を目的として送られる電子メールは、インターネットのみならず携帯電話で手軽にメールを利用できるようになってから様々な問題を引き起こしました。
携帯電話のユーザーからは「メールを受け取るユーザーがパケット料金を負担させられて不公平である。」とか「広告を見て出会い系サイトを利用したところ無料といっていたのに料金を請求された。」とか「見たくもない下品な広告を強制的に読まされて不愉快である。」などの苦情が寄せられました。プロバイダー、携帯電話会社の側でも多量の架空メールの送信で設備に負担がかかってしまうという事態も発生しました。
当初、携帯電話の番号をそのままメールアドレスにすることが多かったため、広告メールを送る側は数字をランダムに組み合わせたメールアドレスに電子メールを送りつければ、何割かは到達していました。このため携帯電話会社は携帯電話の番号をそのままメールアドレスにしないようにユーザーに呼びかけたり、新規の契約では@マークの前をランダムな英数字の組み合わせにしたりすることとしました。また約款を改正し、宛先不明率が高いメールについては配信を行わないことができるようになりました。
インターネットの場合も、プロバイダー側でSPAMメール防止サービスを設けたり、特定のドメインからのメールにフィルタをかけるなどのサービスを設けるなどの対策が採られました。
これらの防止手段が採られるようになって一定の効果があったと思われますが、被害がゼロになったとはいえず、法的な規制の必要性が論じられました。事前に承諾した消費者だけに広告メールを送るようにすべきである(「オプトイン」といいます)という意見もありましたが、一方で普通の郵便を利用したダイレクトメールや個別訪問で消費者の事前の承諾のない営業活動を規制していないのに電子メールの場合だけ規制するのはおかしいといった反対意見もありました。
2 「特定商取引法」と「特定電子メールの送信の適正化等に関する法律」の二つの法律で規制
「特定商取引法」による規制
特定商取引法は「指定役務」について通信販売等の広告を規制しています。たとえば出会い系サイトの広告は「結婚又は交際を希望する者への異性の紹介」、ビデオ、DVDの販売広告は「映画、演劇、音楽、スポーツ写真又は絵画、彫刻その他の美術工芸品を鑑賞させ、又は観覧させること」といった「指定役務」に該当しますので、これらの広告はもともと特定商取引法の規制の対象となっていました。
しかしながら、この法律は迷惑メール対策の規定を特に設けていなかったことから、経済産業省は平成14年1月に特定商取引法の施行規則を改正し新たな表示義務を追加し、同年2月1日に改正施行規則を施行しました。ここで表示義務があるものとして追加されたのは①通信販売業者等の電子メールアドレスの表示、②メールの件名欄に「!広告!」と表示、③消費者が電子メールの受け取りを希望しない場合の連絡を行う方法の表示(連絡方法を設定しない場合には、件名欄に「!連絡方法無し!」と表示)です。ただ、これらは「法律」の改正ではなく「施行規則」の改正にとどまっていました。
そこで、平成14年4月、経済産業省はさらに特定商取引法という法律そのものの改正を行い、平成14年7月1日から改正特定商取引法が施行されました。この改正特定商取引法および改正に伴う施行規則では、①消費者が受け取りを希望しない旨の通知をした場合には、その消費者に再送信することはできないこと(受け取りを拒否した者には再送信をしてはならないという「オプトアウト」という方式が採られています、法12条の2)、②表題部の表示を従来の「!広告!」から「未承諾広告※」に変更すること、③消費者が広告メールの受け取りを希望しない場合にその旨を通信販売事業者等に連絡する方法を記載することを義務づけ、従来の「!連絡方法無し!」は認められないこと、④受信拒否の連絡方法を表示する場合には、メール本文の最前部に事業者の表示に続けて受信拒否を受付けるための電子メールアドレスを表示すること、などが定められています。
以上の規定に違反した場合は当然違法ということになります。特に法12条の2に違反して、受け取りを拒否した者に対して広告メールを送信した場合には、主務大臣は、業者に対して、必要な措置を採るよう指示することができます(法14条)。業者が指示に従わない場合に主務大臣は業務の全部又は一部を停止するよう命ずることができます(法15条)。指示や業務停止命令に違反した場合には罰則(指示違反の場合には100万円以下の罰金、業務停止命令違反の場合には300万円以下の罰金又は2年以下の懲役、又はその併科(法人の場合、3億円以下の罰金))の適用を受けます(法70条2号、法72条2号、法74条)。
「特定電子メールの送信の適正化等に関する法律」による規制
一方、総務省は議員立法のかたちで「特定電子メールの送信の適正化等に関する法律」を新たに立法化し、改正特定商取引法と同じ平成14年7月1日から施行しました。
この法律では、規制を受ける電子メールを「特定電子メール」とし、「特定電子メール」を送信する者に義務を課しています。たとえば①「未承諾広告※」という表示を表題部の最前部にすること(同法3条、施行規則2条2項)、②送信者の氏名又は名称及び住所を表示すること(同法3条)、③送信に用いた電子メールアドレスの表示(同法3条)、④送信をしないよう求める旨の通知を受けるための電子メールアドレスの表示、⑤拒否者に対する送信の禁止(同法4条)、⑥架空電子メールアドレスに対する送信の禁止(同法5条)、などです。ランダムに作成された架空電子メールアドレスに対する送信の禁止は特定商取引法では規定がありませんが「特定電子メールの送信の適正化等に関する法律」では規定を設けています。
以上の規定に違反する場合には、違法ということになります。同法3条から5条までの規定に従わない場合には、総務大臣は送信者に対して、必要な措置を採るべきことを命ずることができます(同法6条)。また、同法3条および4条に違反したメールを受信した者は、総務大臣に対して適当な措置を採るよう申出をすることができ、申出があった場合には総務大臣は必要な調査を行い、その結果に基づき必要があると認めるときは、この法律に基づく措置その他適当な措置をとらなければならないと定められています(同法7条)。同法6条の措置命令に違反した場合には、50万円以下の罰金に処せられます(同法18条)。
結局のところ、「特定商取引法」でも「特定電子メールの送信の適正化等に関する法律」でも、表示義務、その他の法律上の義務をきちんと果たしていない広告メールなどは違法ということになりますが、表示義務を果たしている、架空電子メールアドレスに対する送信を行っていない、など法律に定められた条件に従って広告メールを送信している場合には、受信者から送信者に対して送信をしないよう求めない限り合法ということになります。
> Q.2 迷惑メールを受信しないようにすることはできるのか?
Q1で述べたとおり、受信者から送信者に対して送信をしないよう求めれば、法律上は再送信をしてはいけないことにはなっています。しかしながら、このような受信拒否の通知を出すと、送信者側には「このメールアドレスにはきちんと届いている」ということがわかりますので、法律を無視して再送信をしたり、別の業者にメールアドレスリストを譲渡したりすることなどが考えられます。また、受信拒否の際に、氏名や住所などを記載すれば、メールアドレスだけでなくメールアドレスと氏名とのつながりや氏名と住所のつながりといった個人情報まで送信者に渡してしまうことになります。仮に再送信拒否の通知を行うとしても、氏名、住所を通知する必要はありません。また通知を出す場合にはその記録をきちんと保存しておきましょう。記録を残しておけば、通知を出したにもかかわらず再送信を受けたことを監督官庁などに相談する場合に役に立ちます。
あやしい業者に対する受信拒否の通知は最後の手段にとっておいて、とりあえずメールソフトやプロバイダー、携帯電話で用意されている迷惑メール防止機能、SPAM防止機能を利用してみましょう。
> Q.3 迷惑メールが来たら、どこに文句を言えばよいのか?
携帯電話やプロバイダーに迷惑メールの情報窓口が用意されている場合があります。携帯電話会社やプロバイダーは、集めた情報をもとに関係機関に報告したり約款に従って対処してくれる場合があります。各携帯電話会社やプロバイダーの迷惑メール対策のHPなどを参考にしてください。
「特定商取引法」の表示義務に違反するメールを受け取ったり、再送信義務違反のメールを受け取った場合には、財団法人日本産業協会(http://www.nissankyo.or.jp/)に情報提供をすることができます。また、各地の消費生活センターや経済産業省消費者相談室などの窓口でも相談を受付けているとのことです。
「特定電子メールの送信の適正化等に関する法律」に違反している迷惑メールの場合には、財団法人日本データ通信協会(http://www.dekyo.or.jp/)の迷惑メール相談センターに相談してください。こちらでは電話相談も受付けています。
過去の事例
ニフティ事件とドコモ事件
浦和地裁(現さいたま地裁)は、平成11年3月9日、ニフティの会員向けに大量の広告メールを発信した者に対して、送信差止めの仮処分決定を出しました。また、横浜地裁は平成13年10月29日、ランダムなNTTドコモのメールアドレスを生成して架空メールアドレスを含む1時間に14万通の大量の広告メールをNTTドコモに送信した者に対して電気通信設備の所有権侵害を理由に送信差止めの仮処分決定を出しました。
初の措置命令
平成14年12月25日、総務省は財団法人日本データ通信協会に複数の違反情報が寄せられた情報をもとに、特定電子メールの送信の適正化等に関する法律に違反して迷惑メールを送信していた東京都内の男性に対して同法に基づく初めての措置命令を出しました。
条文
「特定商取引法」
(通信販売についての広告)
第十一条 略
2項 前項各号に掲げる事項のほか、販売業者又は役務提供事業者は、通信販売をする場合の指定商品若しくは指定権利の販売条件又は指定役務の提供条件について電磁的方法(電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であつて経済産業省令で定めるものをいう。以下同じ。)により広告をするとき(その相手方の求めに応じて広告をするとき、その他の経済産業省令で定めるときを除く。)は、経済産業省令で定めるところにより、当該広告に、その相手方が当該広告に係る販売業者又は役務提供事業者から電磁的方法による広告の提供を受けることを希望しない旨の意思を表示するための方法を表示しなければならない。
(電磁的方法による広告の提供を受けることを希望しない旨の意思の表示を受けている者に対する提供の禁止)
第十二条の二 販売業者又は役務提供事業者は、通信販売をする場合の指定商品若しくは指定権利の販売条件又は指定役務の提供条件について電磁的方法により広告をする場合において、その相手方から第十一条第二項の規定により電磁的方法による広告の提供を受けることを希望しない旨の意思の表示を受けているときは、その者に対し、電磁的方法による広告の提供を行つてはならない。
「特定商取引法施行規則」
(通信販売についての広告)
第八条 2項本文
販売業者又は役務提供事業者は、前項第九号に掲げる事項について、その広告の用に供される電磁的記録の表題部の最前部に、本文で用いられるものと同一の文字コードを用いて符号化することにより「未承諾広告※」と表示しなければならない。
(連絡方法の表示)
第十条の四 相手方の請求に基づかないで、かつ、その承諾を得ないで電磁的方法により広告をするとき(相手方の請求に基づいて、又はその承諾を得て電磁的方法により送信される電磁的記録の一部に掲載することにより広告をするときを除く。第二十六条の三及び第四十一条の三において同じ。)であつて、法第十一条第二項 の規定によりその相手方が電磁的方法による広告の提供を受けることを希望しない旨の意思を表示するための方法を表示するときは、その広告の用に供される電磁的記録の本文の最前部に「〈事業者〉」との表示に続けて次の事項を表示し、かつ、その相手方が広告の提供を受けることを希望しない旨及びその相手方の電子メールアドレスを通知することによつて当該販売業者又は役務提供事業者からの電磁的方法による広告の提供が停止されることを明らかにしなければならない。
一 販売業者又は役務提供事業者の氏名又は名称
二 相手方が電磁的方法による広告の提供を受けることを希望しない旨を通知するための電子メールアドレス
「特定電子メールの送信の適正化等に関する法律」
(表示義務)
第三条 送信者は、特定電子メールの送信に当たっては、総務省令で定めるところにより、その受信をする者が使用する通信端末機器の映像面に次の事項が正しく表示されるようにしなければならない。
一 特定電子メールである旨
二 当該送信者の氏名又は名称及び住所
三 当該特定電子メールの送信に用いた電子メールアドレス
四 次条の通知を受けるための当該送信者の電子メールアドレス
五 その他総務省令で定める事項
(拒否者に対する送信の禁止)
第四条 送信者は、その送信をした特定電子メールの受信をした者であって、総務省令で定めるところにより特定電子メールの送信をしないように求める旨(一定の事項に係る特定電子メールの送信をしないように求める場合にあっては、その旨)を当該送信者に対して通知したものに対し、これに反して、特定電子メールの送信をしてはならない。
(架空電子メールアドレスによる送信の禁止)
第五条 送信者は、自己又は他人の営業につき広告又は宣伝を行うための手段として電子メールの送信をするときは、電子メールアドレスとして利用することが可能な符号を作成する機能を有するプログラム(電子計算機に対する指令であって一の結果を得ることができるように組み合わされたものをいい、総務省令で定める方法により当該符号を作成するものに限る。)を用いて作成した架空電子メールアドレス(符号であってこれを電子メールアドレスとして利用する者がないものをいう。第十条及び第十六条第一項において同じ。)をその受信をする者の電子メールアドレスとしてはならない。
(措置命令)
第六条 総務大臣は、送信者が一時に多数の者に対してする特定電子メールの送信その他の電子メールの送信につき前三条の規定を遵守していないと認める場合において、電子メールの送受信上の支障を防止するため必要があると認めるときは、当該送信者に対し、当該規定が遵守されることを確保するため必要な措置をとるべきことを命ずることができる。
(総務大臣に対する申出)
第七条 特定電子メールの受信をした者は、第三条又は第四条の規定に違反して当該特定電子メールの送信がされたと認めるときは、総務大臣に対し、適当な措置をとるべきことを申し出ることができる。
2 総務大臣は、前項の規定による申出があったときは、必要な調査を行い、その結果に基づき必要があると認めるときは、この法律に基づく措置その他適当な措置をとらなければならない。
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