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2015年6月

2015年6月30日 (火)

昔の原稿2003年8月版(迷惑メール)

2003年8月に書いた雑誌用の原稿です。ご参考までに。

なお、当時の法律等に基づいていますので現在の法律や判例、ガイドライン、解釈と異なる可能性があります(12年前とは結構変わっています)

あくまで「過去の原稿」ということをご了承ください。

 

> Q.1 迷惑メールを規制する法律ができた後も、迷惑メールは来るが

 

> 違法ではないのか?

 

 

 

1 規制に至る経緯

 

 

 

従来のダイレクトメールと異なり、切手代や印刷費用のかからない電子メールを利用した広告は、広告を送る側からすればコストや手間を大幅に削減できる有効な手段といえます。しかしながら、送信先の同意を得ないで大量、無差別に広告、宣伝、勧誘を目的として送られる電子メールは、インターネットのみならず携帯電話で手軽にメールを利用できるようになってから様々な問題を引き起こしました。

 

携帯電話のユーザーからは「メールを受け取るユーザーがパケット料金を負担させられて不公平である。」とか「広告を見て出会い系サイトを利用したところ無料といっていたのに料金を請求された。」とか「見たくもない下品な広告を強制的に読まされて不愉快である。」などの苦情が寄せられました。プロバイダー、携帯電話会社の側でも多量の架空メールの送信で設備に負担がかかってしまうという事態も発生しました。

 

当初、携帯電話の番号をそのままメールアドレスにすることが多かったため、広告メールを送る側は数字をランダムに組み合わせたメールアドレスに電子メールを送りつければ、何割かは到達していました。このため携帯電話会社は携帯電話の番号をそのままメールアドレスにしないようにユーザーに呼びかけたり、新規の契約では@マークの前をランダムな英数字の組み合わせにしたりすることとしました。また約款を改正し、宛先不明率が高いメールについては配信を行わないことができるようになりました。

 

インターネットの場合も、プロバイダー側でSPAMメール防止サービスを設けたり、特定のドメインからのメールにフィルタをかけるなどのサービスを設けるなどの対策が採られました。

 

これらの防止手段が採られるようになって一定の効果があったと思われますが、被害がゼロになったとはいえず、法的な規制の必要性が論じられました。事前に承諾した消費者だけに広告メールを送るようにすべきである(「オプトイン」といいます)という意見もありましたが、一方で普通の郵便を利用したダイレクトメールや個別訪問で消費者の事前の承諾のない営業活動を規制していないのに電子メールの場合だけ規制するのはおかしいといった反対意見もありました。

 

 

 

2 「特定商取引法」と「特定電子メールの送信の適正化等に関する法律」の二つの法律で規制

 

 

 

 「特定商取引法」による規制

 

 

 

 特定商取引法は「指定役務」について通信販売等の広告を規制しています。たとえば出会い系サイトの広告は「結婚又は交際を希望する者への異性の紹介」、ビデオ、DVDの販売広告は「映画、演劇、音楽、スポーツ写真又は絵画、彫刻その他の美術工芸品を鑑賞させ、又は観覧させること」といった「指定役務」に該当しますので、これらの広告はもともと特定商取引法の規制の対象となっていました。

 

しかしながら、この法律は迷惑メール対策の規定を特に設けていなかったことから、経済産業省は平成14年1月に特定商取引法の施行規則を改正し新たな表示義務を追加し、同年2月1日に改正施行規則を施行しました。ここで表示義務があるものとして追加されたのは①通信販売業者等の電子メールアドレスの表示、②メールの件名欄に「!広告!」と表示、③消費者が電子メールの受け取りを希望しない場合の連絡を行う方法の表示(連絡方法を設定しない場合には、件名欄に「!連絡方法無し!」と表示)です。ただ、これらは「法律」の改正ではなく「施行規則」の改正にとどまっていました。

 

そこで、平成14年4月、経済産業省はさらに特定商取引法という法律そのものの改正を行い、平成14年7月1日から改正特定商取引法が施行されました。この改正特定商取引法および改正に伴う施行規則では、①消費者が受け取りを希望しない旨の通知をした場合には、その消費者に再送信することはできないこと(受け取りを拒否した者には再送信をしてはならないという「オプトアウト」という方式が採られています、法12条の2)、②表題部の表示を従来の「!広告!」から「未承諾広告※」に変更すること、③消費者が広告メールの受け取りを希望しない場合にその旨を通信販売事業者等に連絡する方法を記載することを義務づけ、従来の「!連絡方法無し!」は認められないこと、④受信拒否の連絡方法を表示する場合には、メール本文の最前部に事業者の表示に続けて受信拒否を受付けるための電子メールアドレスを表示すること、などが定められています。

 

以上の規定に違反した場合は当然違法ということになります。特に法12条の2に違反して、受け取りを拒否した者に対して広告メールを送信した場合には、主務大臣は、業者に対して、必要な措置を採るよう指示することができます(法14条)。業者が指示に従わない場合に主務大臣は業務の全部又は一部を停止するよう命ずることができます(法15条)。指示や業務停止命令に違反した場合には罰則(指示違反の場合には100万円以下の罰金、業務停止命令違反の場合には300万円以下の罰金又は2年以下の懲役、又はその併科(法人の場合、3億円以下の罰金))の適用を受けます(法70条2号、法72条2号、法74条)。

 

 

 

「特定電子メールの送信の適正化等に関する法律」による規制

 

 

 

 一方、総務省は議員立法のかたちで「特定電子メールの送信の適正化等に関する法律」を新たに立法化し、改正特定商取引法と同じ平成14年7月1日から施行しました。

 

 この法律では、規制を受ける電子メールを「特定電子メール」とし、「特定電子メール」を送信する者に義務を課しています。たとえば①「未承諾広告※」という表示を表題部の最前部にすること(同法3条、施行規則2条2項)、②送信者の氏名又は名称及び住所を表示すること(同法3条)、③送信に用いた電子メールアドレスの表示(同法3条)、④送信をしないよう求める旨の通知を受けるための電子メールアドレスの表示、⑤拒否者に対する送信の禁止(同法4条)、⑥架空電子メールアドレスに対する送信の禁止(同法5条)、などです。ランダムに作成された架空電子メールアドレスに対する送信の禁止は特定商取引法では規定がありませんが「特定電子メールの送信の適正化等に関する法律」では規定を設けています。

 

以上の規定に違反する場合には、違法ということになります。同法3条から5条までの規定に従わない場合には、総務大臣は送信者に対して、必要な措置を採るべきことを命ずることができます(同法6条)。また、同法3条および4条に違反したメールを受信した者は、総務大臣に対して適当な措置を採るよう申出をすることができ、申出があった場合には総務大臣は必要な調査を行い、その結果に基づき必要があると認めるときは、この法律に基づく措置その他適当な措置をとらなければならないと定められています(同法7条)。同法6条の措置命令に違反した場合には、50万円以下の罰金に処せられます(同法18条)。

 

 

 

 結局のところ、「特定商取引法」でも「特定電子メールの送信の適正化等に関する法律」でも、表示義務、その他の法律上の義務をきちんと果たしていない広告メールなどは違法ということになりますが、表示義務を果たしている、架空電子メールアドレスに対する送信を行っていない、など法律に定められた条件に従って広告メールを送信している場合には、受信者から送信者に対して送信をしないよう求めない限り合法ということになります。

 

 

 

> Q.2 迷惑メールを受信しないようにすることはできるのか?

 

 

 

 Q1で述べたとおり、受信者から送信者に対して送信をしないよう求めれば、法律上は再送信をしてはいけないことにはなっています。しかしながら、このような受信拒否の通知を出すと、送信者側には「このメールアドレスにはきちんと届いている」ということがわかりますので、法律を無視して再送信をしたり、別の業者にメールアドレスリストを譲渡したりすることなどが考えられます。また、受信拒否の際に、氏名や住所などを記載すれば、メールアドレスだけでなくメールアドレスと氏名とのつながりや氏名と住所のつながりといった個人情報まで送信者に渡してしまうことになります。仮に再送信拒否の通知を行うとしても、氏名、住所を通知する必要はありません。また通知を出す場合にはその記録をきちんと保存しておきましょう。記録を残しておけば、通知を出したにもかかわらず再送信を受けたことを監督官庁などに相談する場合に役に立ちます。

 

あやしい業者に対する受信拒否の通知は最後の手段にとっておいて、とりあえずメールソフトやプロバイダー、携帯電話で用意されている迷惑メール防止機能、SPAM防止機能を利用してみましょう。

 

 

 

> Q.3 迷惑メールが来たら、どこに文句を言えばよいのか?

 

 

 

 携帯電話やプロバイダーに迷惑メールの情報窓口が用意されている場合があります。携帯電話会社やプロバイダーは、集めた情報をもとに関係機関に報告したり約款に従って対処してくれる場合があります。各携帯電話会社やプロバイダーの迷惑メール対策のHPなどを参考にしてください。

 

 「特定商取引法」の表示義務に違反するメールを受け取ったり、再送信義務違反のメールを受け取った場合には、財団法人日本産業協会(http://www.nissankyo.or.jp/)に情報提供をすることができます。また、各地の消費生活センターや経済産業省消費者相談室などの窓口でも相談を受付けているとのことです。

 

「特定電子メールの送信の適正化等に関する法律」に違反している迷惑メールの場合には、財団法人日本データ通信協会(http://www.dekyo.or.jp/)の迷惑メール相談センターに相談してください。こちらでは電話相談も受付けています。

 

 

 

過去の事例

 

ニフティ事件とドコモ事件

 

 浦和地裁(現さいたま地裁)は、平成11年3月9日、ニフティの会員向けに大量の広告メールを発信した者に対して、送信差止めの仮処分決定を出しました。また、横浜地裁は平成13年10月29日、ランダムなNTTドコモのメールアドレスを生成して架空メールアドレスを含む1時間に14万通の大量の広告メールをNTTドコモに送信した者に対して電気通信設備の所有権侵害を理由に送信差止めの仮処分決定を出しました。

 

 

 

初の措置命令

 

平成14年12月25日、総務省は財団法人日本データ通信協会に複数の違反情報が寄せられた情報をもとに、特定電子メールの送信の適正化等に関する法律に違反して迷惑メールを送信していた東京都内の男性に対して同法に基づく初めての措置命令を出しました。

 

 

 

 

 

 

 

条文

 

 

 

「特定商取引法」

 

 

 

(通信販売についての広告)

 

第十一条  略

 

2項  前項各号に掲げる事項のほか、販売業者又は役務提供事業者は、通信販売をする場合の指定商品若しくは指定権利の販売条件又は指定役務の提供条件について電磁的方法(電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であつて経済産業省令で定めるものをいう。以下同じ。)により広告をするとき(その相手方の求めに応じて広告をするとき、その他の経済産業省令で定めるときを除く。)は、経済産業省令で定めるところにより、当該広告に、その相手方が当該広告に係る販売業者又は役務提供事業者から電磁的方法による広告の提供を受けることを希望しない旨の意思を表示するための方法を表示しなければならない。

 

 

 

(電磁的方法による広告の提供を受けることを希望しない旨の意思の表示を受けている者に対する提供の禁止)

 

第十二条の二  販売業者又は役務提供事業者は、通信販売をする場合の指定商品若しくは指定権利の販売条件又は指定役務の提供条件について電磁的方法により広告をする場合において、その相手方から第十一条第二項の規定により電磁的方法による広告の提供を受けることを希望しない旨の意思の表示を受けているときは、その者に対し、電磁的方法による広告の提供を行つてはならない。

 

 

 

 

 

 

 

「特定商取引法施行規則」

 

 

 

(通信販売についての広告)

 

第八条 2項本文

 

  販売業者又は役務提供事業者は、前項第九号に掲げる事項について、その広告の用に供される電磁的記録の表題部の最前部に、本文で用いられるものと同一の文字コードを用いて符号化することにより「未承諾広告※」と表示しなければならない。

 

 

 

(連絡方法の表示)

 

第十条の四  相手方の請求に基づかないで、かつ、その承諾を得ないで電磁的方法により広告をするとき(相手方の請求に基づいて、又はその承諾を得て電磁的方法により送信される電磁的記録の一部に掲載することにより広告をするときを除く。第二十六条の三及び第四十一条の三において同じ。)であつて、法第十一条第二項 の規定によりその相手方が電磁的方法による広告の提供を受けることを希望しない旨の意思を表示するための方法を表示するときは、その広告の用に供される電磁的記録の本文の最前部に「〈事業者〉」との表示に続けて次の事項を表示し、かつ、その相手方が広告の提供を受けることを希望しない旨及びその相手方の電子メールアドレスを通知することによつて当該販売業者又は役務提供事業者からの電磁的方法による広告の提供が停止されることを明らかにしなければならない。

 

  販売業者又は役務提供事業者の氏名又は名称

 

  相手方が電磁的方法による広告の提供を受けることを希望しない旨を通知するための電子メールアドレス

 

 

 

 

 

 

 

「特定電子メールの送信の適正化等に関する法律」

 

 

 

(表示義務)

 

第三条  送信者は、特定電子メールの送信に当たっては、総務省令で定めるところにより、その受信をする者が使用する通信端末機器の映像面に次の事項が正しく表示されるようにしなければならない。

 

  特定電子メールである旨

 

  当該送信者の氏名又は名称及び住所

 

  当該特定電子メールの送信に用いた電子メールアドレス

 

  次条の通知を受けるための当該送信者の電子メールアドレス

 

  その他総務省令で定める事項

 

 

 

(拒否者に対する送信の禁止)

 

第四条  送信者は、その送信をした特定電子メールの受信をした者であって、総務省令で定めるところにより特定電子メールの送信をしないように求める旨(一定の事項に係る特定電子メールの送信をしないように求める場合にあっては、その旨)を当該送信者に対して通知したものに対し、これに反して、特定電子メールの送信をしてはならない。

 

 

 

(架空電子メールアドレスによる送信の禁止)

 

第五条  送信者は、自己又は他人の営業につき広告又は宣伝を行うための手段として電子メールの送信をするときは、電子メールアドレスとして利用することが可能な符号を作成する機能を有するプログラム(電子計算機に対する指令であって一の結果を得ることができるように組み合わされたものをいい、総務省令で定める方法により当該符号を作成するものに限る。)を用いて作成した架空電子メールアドレス(符号であってこれを電子メールアドレスとして利用する者がないものをいう。第十条及び第十六条第一項において同じ。)をその受信をする者の電子メールアドレスとしてはならない。

 

 

 

(措置命令)

 

第六条  総務大臣は、送信者が一時に多数の者に対してする特定電子メールの送信その他の電子メールの送信につき前三条の規定を遵守していないと認める場合において、電子メールの送受信上の支障を防止するため必要があると認めるときは、当該送信者に対し、当該規定が遵守されることを確保するため必要な措置をとるべきことを命ずることができる。

 

 

 

(総務大臣に対する申出)

 

第七条  特定電子メールの受信をした者は、第三条又は第四条の規定に違反して当該特定電子メールの送信がされたと認めるときは、総務大臣に対し、適当な措置をとるべきことを申し出ることができる。

 

  総務大臣は、前項の規定による申出があったときは、必要な調査を行い、その結果に基づき必要があると認めるときは、この法律に基づく措置その他適当な措置をとらなければならない。

 

2015年6月29日 (月)

昔の原稿2003年7月版(名誉毀損)

2003年7月に書いた雑誌用の原稿です。ご参考までに。

なお、当時の法律等に基づいていますので現在の法律や判例、ガイドライン、解釈と異なる可能性があります(12年前とは結構変わっています)

あくまで「過去の原稿」ということをご了承ください。

> Q.1 掲示板で実名や住所を晒されてしまった。違法ではないのか?

 氏名や住所、電話番号といった情報は、一般の人であれば、みだりに公開したり、利用して欲しくない情報といえるでしょう。プライバシーの権利についてどのように考えていくのかについては、「ひとりにしておいてもらう権利」「自己の情報をコントロールする権利」などいろいろな考え方があります。最近は「自己の情報をコントロールする権利」ととらえる見解が多いようです。この見解を前提にすれば、氏名や住所などの情報は「自己の情報」の代表的なものといえるので、掲示板に無断で氏名や住所を掲載することは、プライバシー権の侵害に該当し違法であり、掲載した者は不法行為責任(民法709条)を負うものと解されます。

過去の例としては、医師(原告)がハンドル名でニフティの掲示板に書き込みをしていたところ、被告が、原告の氏名、職業、原告が開設する診療所の住所および電話番号を掲示板に掲載し、その結果、無言電話やいたずら電話がかかってくる、などの損害を原告が被ったとして、被告の損害賠償責任を認めた事例があります(神戸地裁平成11年6月23日判決)。

 この事例では、掲示板に書き込まれた原告の情報はNTT作成の地域別職業別電話帳に掲載され、またCD-ROMなどに納められている情報なので一定の範囲では既に公開されているものでした。しかしこの判決では「個人の情報を一定の目的のために公開した者において、それが右目的外に悪用されないために、右個人情報を右公開目的と関係のない範囲まで知られたくないと欲することは決して不合理なことではなく、それもやはり保護されるべき利益であるというべきである。そして、このように自己に関する情報をコントロールすることは、プライバシーの権利の基本的属性として、これに含まれるものと解される。」として、プライバシーの侵害であることを認めています。この判決では、被告の不法行為の内容や、原告のいたずら電話などによる被害を考慮して20万円の慰謝料を認めています。

 なお、氏名、住所だけを掲示板に掲載されてしまった場合には、掲載した者の刑事責任を問うことは難しいと思われます。ただ、氏名、住所、電話番号とともに、「みんなでここに電話をかけよう」とか「こいつは犯罪者だ」などという記載をすれば、業務妨害罪(刑法233条)や名誉毀損罪(刑法230条)などが成立する場合もあります。

 

> Q.2 掲示板で身に覚えのない中傷を受けてしまった。違法ではないのか?

 

 掲示板など名誉を毀損されたり侮辱的な表現を受けた場合には、刑事上及び民事上、違法となる可能性があります。

 

刑事上の問題について

公然と事実を摘示して、人の名誉を毀損した場合には名誉毀損罪(刑法230条)が成立します。名誉毀損罪が成立するためには、次の要件を満たす必要があります。

「公然」とは不特定または多数人の認識しうる状態をいいます。数名でも「多数」に当たる場合があります。ホームページの場合、多数の者の閲覧が可能ですから、「公然」に当たります。また、メールの場合であっても、数名の者に送信すれば、「公然」に当たります。したがって掲示板の場合にも、「公然」といえるでしょう。

「事実を摘示」とは具体的に人の社会的評価を低下させるに足りる事実を告げることをいいます。ここにいう事実は、抽象的事実では足りず、具体的事実でなければなりません。抽象的事実と具体的事実は区別が難しいのですが、単なる価値判断や評価だけでは具体的事実とはいえません。たとえば、ホームページ上で、ある人物を「あほ」「ばか」「税金泥棒」としただけでは、抽象的事実にとどまり、具体的事実ではありませんので、この要件を充たしません。ただし侮辱罪(刑法231条)が成立する可能性があります。具体的事実か抽象的事実かの判断は、微妙な場合があります。

「人の名誉を毀損」とは事実を摘示して人の社会的評価を害する危険性を生じさせることをいい、現実に社会的評価が害されたことを要しません。

なお、以上の条件を充たす場合でも、公共の利害に関する事実に関して、公益を図る目的で、真実であることの証明があった場合には、罰せられないことになっています(刑法230条の2)。

掲示板に具体的事実を記載して人の名誉を毀損した場合には、名誉毀損罪が成立することになるでしょう。仮に事実を摘示しない場合でも、公然と人を侮辱した者に対しては侮辱罪が成立することがあります。

 

民事上の責任追及

民事における名誉毀損は、名誉(人に対する社会的評価)を低下させる行為をいいます。その行為によって現実に人の社会的評価を低下させたことまでを必要としません。その社会的評価の低下を招く危険性を生じさせたことで足ります。なお、刑事の場合と異なり、具体的な事実を摘示する行為のみならず、ある事実を基礎としての意見ないし論評を表明する行為(論評)も違法とされる場合があります。

民事法における名誉・信用は、人または法人等がその品性、徳行、名声、信用等の人格的な価値については社会から受ける客観的な評価であり、人または法人等の社会的評価を低下させることが名誉、信用の毀損となります。

掲示板に書き込まれた内容が名誉毀損となるかどうかは、当該掲示板の一般読者の普通の注意と読み方とを基準として判断すべきものとするのが判例の立場です。

掲示板の書き込みが名誉毀損に該当する場合には違法であり、不法行為(民法709条、710条)が成立しますので、書き込みをした人物に対して損害賠償請求ができます。民事上は、刑事と異なり、社会的評価を低下させるような表現だけではなく、名誉感情を害された場合にも不法行為の成立を認める場合があります。

 

> Q.3 加害者をどうやって特定したらいいのか?

 

 掲示板の書き込みや他の情報から加害者が特定できれば何も問題ないのですが、匿名掲示板の書き込みから加害者の情報を得ることは非常に困難です。このような場合に加害者を特定するために、平成14年5月27日に施行されたプロバイダー責任制限法では、被害者からプロバイダーや掲示板の主催者に対して発信者情報開示請求を認めています(同法4条)。

プロバイダー責任制限法4条では次の二つの条件を充たす場合に、被害者からプロバイダー等への発信者情報の開示請求を認めています。

 ① 侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであること(同法4条1項1号)。

 ② 当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき(同法4条1項2号)。

 被害者から開示請求を受けたプロバイダー等は、原則として発信者に開示するかどうかについて意見を聴かなければなりません(同法4条2項)。発信者が開示に同意すれば、プロバイダー等は開示請求をした被害者に対して発信者情報を開示することになります。

では発信者が開示に同意しない場合にはどうなるのでしょうか。この場合、プロバイダー等は、開示するかしないかの決断を迫られることになります。仮に発信者が、「名誉毀損には該当しない。」などと回答した場合には、プロバイダー側で、本当に名誉毀損に該当しないのかどうかを判断しなければなりませんが、名誉毀損になるかどうかは判断が難しいと思われます。発信者がイヤだと言っているのに、被害者の請求のままプロバイダーが発信者情報を開示すれば、プロバイダーが発信者に対して責任を負うことも考えられます。一方、発信者情報を開示しない場合についてプロバイダー責任制限法4条4項では、「開示の請求に応じないことにより当該開示の請求をした者に生じた損害については、故意又は重大な過失がある場合でなければ、賠償の責に任じない。」と定めていますので、プロバイダーの過失が「軽過失」の場合には、プロバイダーは開示をしなくても責任を負わないことになります。普通の場合であれば、「軽過失」の場合でも責任を負いますから、開示しない場合の方がプロバイダーの責任は軽減されているわけです。結論からいえば、プロバイダーは発信者情報を開示するよりも開示をしない方が責任を問われにくいということになります。

 被害者がプロバイダー等に対して発信者情報の開示を請求しても回答を拒絶された場合には、プロバイダー等を被告として裁判で開示を請求することになります。

 なお、東京地裁は平成15年4月24日の判決で、「経由プロバイダーには開示請求できない」との判断を示しました。このケースはある会社が掲示板に中傷の書き込みをされたとして、ソネットを運営するプロバイダーに開示を請求した事件です。原告が掲示板の設置されているレンタルサーバー会社に、中傷発言の削除と開示請求をしたところ、同社は、原告に対して、発信者のメールアドレスなどを開示しましたが、氏名などは把握していないと回答しました。そこで原告はメールアドレスを発行している被告に対してメールアドレス保有者の氏名などの開示を請求しましたが、被告がメールアドレス保有者に開示についての意見を聴取したところ、メールアドレス保有者は開示を拒否する旨の回答をしたため、被告は開示を拒否。原告は被告に対して開示するよう訴えを起こした、というのが事件の経緯です。

 裁判所は、掲示板への書き込み行為自体は、プロバイダー責任制限法の予定する特定電気通信(不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信)にはあたらない(発信者から掲示板への書き込みは1対1の通信であって、不特定の者によって受信されていない)、したがって、メールアドレスを発行しているプロバイダーは開示義務を負うものではない、と判断しました。

 しかしながら、このように考えるとほとんどの場合開示請求が無意味になってしまいますし、発信者の責任追及は困難になってしまいます。この判例が定着するかどうかはわかりませんので今後の判例をみていく必要があるでしょう。

 

 

 

過去の事例

2ちゃんねる動物病院事件

動物病院とその院長が「悪徳動物病院告発スレッド」内の書き込みを名誉毀損として、2ちゃんねるに対して削除を依頼しましたが、所定の削除依頼の方法に従っていなかった等の理由で削除されなかったことから全部が削除されず、平成13年7月、2チャンネル側に対して削除と損害賠償を請求した事件。第1審の東京地裁は2チャンネル側に名誉毀損となる書き込みの削除と損害賠償を命じたため、2チャンネル側が控訴。第2審の東京高裁は、やはり2チャンネル側に削除義務を認め、控訴を棄却しました(東京高判平成14年12月25日)。

 

条文

民法709条

故意又ハ過失ニ因リテ他人ノ権利ヲ侵害シタル者ハ之ニ因リテ生シタル損害ヲ賠償スル責ニ任ス

 

民法710条

他人ノ身体、自由又ハ名誉ヲ害シタル場合ト財産権ヲ害シタル場合トヲ問ハス前条ノ規定ニ依リテ損害賠償ノ責ニ任スル者ハ財産以外ノ損害ニ対シテモ其賠償ヲ為スコトヲ要ス

 

民法723条

他人ノ名誉ヲ毀損シタル者ニ対シテハ裁判所ハ被害者ノ請求ニ因リ損害賠償ニ代ヘ又ハ損害賠償ト共ニ名誉ヲ回復スルニ適当ナル処分ヲ命スルコトヲ得

 

刑法

(名誉毀損)

第二百三十条  公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。

  死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない。

 

(公共の利害に関する場合の特例)

第二百三十条の二  前条第一項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。

  前項の規定の適用については、公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実とみなす。

  前条第一項の行為が公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実に係る場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。

 

(侮辱)

第二百三十一条  事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。

 

プロバイダー責任制限法

(発信者情報の開示請求等)

第四条  特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は、次の各号のいずれにも該当するときに限り、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者(以下「開示関係役務提供者」という。)に対し、当該開示関係役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る発信者情報(氏名、住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるものをいう。以下同じ。)の開示を請求することができる。

  侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき。

  当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき。

  開示関係役務提供者は、前項の規定による開示の請求を受けたときは、当該開示の請求に係る侵害情報の発信者と連絡することができない場合その他特別の事情がある場合を除き、開示するかどうかについて当該発信者の意見を聴かなければならない。

  第一項の規定により発信者情報の開示を受けた者は、当該発信者情報をみだりに用いて、不当に当該発信者の名誉又は生活の平穏を害する行為をしてはならない。

  開示関係役務提供者は、第一項の規定による開示の請求に応じないことにより当該開示の請求をした者に生じた損害については、故意又は重大な過失がある場合でなければ、賠償の責めに任じない。ただし、当該開示関係役務提供者が当該開示の請求に係る侵害情報の発信者である場合は、この限りでない。

2015年6月27日 (土)

昔の原稿2003年6月版(ファイル共有)

 

2003年6月に書いた雑誌用の原稿です。ご参考までに。

なお、当時の法律等に基づいていますので現在の法律や判例、ガイドライン、解釈と異なる可能性があります(12年前とは結構変わっています)

あくまで「過去の原稿」ということをご了承ください。

Q1・今までアメリカではファイル交換は違法判決が下されていましたが、なぜ今回は合法との判決が出たのでしょうか?

ナップスター事件の経緯  ピアツーピア(以下P2Pとします)によるファイル交換、とくに中央サーバーにファイル情報等を蓄積して、ユーザーが欲しいファイルを検索し、ユーザー間でファイル交換を可能にするハイブリッド型といわれるP2Pがあります。このハイブリッド型P2Pを運営する会社の責任が問われた事件としては、米国のナップスター事件が有名です。 1999年、アメリカのレコード会社は米ナップスター社に対し、著作権侵害の寄与侵害と代位責任を負うとしてカリフォルニア地裁に提訴しました。2000年カリフォルニア地裁の暫定的差止命令(日本でいえば仮処分)の内容は、①ユーザーの行為はフェアユース(日本でいうと著作権法30条の「私的使用目的」のようなもの)に該当せず、ユーザーは著作権を侵害している。②ナップスター社は、このようなユーザーの著作権侵害行為を知っており、またその侵害行為に寄与したといえる見込みがある。③ナップスター社は、経済的利益が認められ、また、監督する権利と能力があったので代位責任が認められる見込みがある。したがって、ナップスター社は、二次的責任を負う見込みがあり、暫定的差止が認められるというものです(暫定的差止命令はその後予定される正式裁判で勝つ見込みがなければだされない、日本の仮処分と同じです)。ナップスター社は控訴しました。控訴審は地裁の判断を基本的に支持しましたが、どんな場合でもナップスター社に二次的責任が発生するのではなく、寄与責任、代位責任が成立する範囲を限定する旨判断し、さらに地裁に差し戻しました。2001年の差戻審では、控訴審の判断を受けて、レコード会社が侵害を受けている著作物などのデータをナップスター社に提出すること、両者が協力して侵害しているファイルを特定することなどを義務づけ、ナップスター社はそれらの侵害ファイルを技術的に可能な範囲で遮断すること(具体的にはフィルタリングをして侵害するファイルのファイル名がナップスターインデックスに含まれないようにする)などを内容とする命令をだしました。その後、ナップスター社は、技術的に可能な範囲でのフィルタリングを怠ったとして、結局はサービス停止に至りました。2002年6月、ナップスター社は連邦破産法第11章の申立てをし(日本でいえば会社更生や再生の申立てにあたる)、現在はその資産を米ロキシオ社が買収しています。  これらの内容をみると、ナップスター事件における命令は必ずしも「ファイル交換すべてが違法である」とは述べているわけではなく、レコード会社にもデータの提出を義務づけ、さらに技術的に可能な範囲でフィルタリングをすることをナップスター社に求めており、仮に技術的に可能範囲でフィルタリングを行えばサービスを継続できた可能性もあります。ただ、技術的に可能な範囲とはどこまでをいうのか、現状ではファイル名でフィルタリングせざるを得ませんが、ファイル名といっても大文字小文字をランダムに使用したもの、誤字脱字のあるもの、省略形にしてあるもの、いろいろなファイル名をどこまで対象とするべきなのか不明確といえば不明確です。 今回の判決  全米レコード協会(RIAA)と米映画協会(MPAA)がファイル交換サービスのStreamcast NetworksとGroksterを訴えていた裁判で、2003年4月25日、ロサンゼルス連邦地裁判事は、「ファイル交換ソフトの配布とサポートは、合法と非合法の両方の目的で利用法を選択できる。ビデオデッキやコピー機の販売とかわりはない。」旨を指摘し、ファイル交換サービス側勝訴の判決を言い渡しました。この判決は、ファイル交換ソフトは違法なファイル交換に使われるだけではない、合法にも使われていることを理由の一つとしてあげています。これは結局のところベータマックス訴訟と同じ理由です。ただし、今回問題となったファイル交換サービスは、ナップスターの場合とは異なる面もあります。ナップスターの場合は、いわゆるハイブリッド型とよばれるものであることは述べましたが、今回の場合は、中央サーバーを介してファイル名の検索を行うわけではないピュア型とよばれるものです(Gnutella、グヌーテラ、ヌーテラは有名ですね)。ピュア型の場合、ファイル交換を提供している会社は、P2Pソフトをユーザーに提供した後は、ユーザー間のファイル交換についてコントロールしていません。というよりもハイブリッド型のように中央サーバーにファイル名などを保管しユーザーに検索させているわけではないのでコントロールしようがありません。今回の判決は、ファイル交換ソフトは合法にも違法にも使える点と、ピュア型である以上、ファイル交換ソフトを提供している会社のサーバーには何らファイルの情報が送られず、ファイル交換ソフトを提供している側はファイル交換ソフトを提供した後は、ユーザーの使用方法が違法であるかどうかを知ることができないし、また仮に違法であることを知ったとしても何ら防止策をとれないことについても考慮しているようです。

Q2・日本ではWinMXで入手したソフトを複製して逮捕されたケースがありましたが、やはりファイル共有は違法なのでしょうか?

ファイル共有自体は違法ではありません。問題は何を共有、送信するかです。複製権(著作権法21条)や公衆送信権、送信可能化権(著作権法23条1項)を持つ権利者の権利を侵害する態様での送信に該当すれば、当然著作権法違反ということになります。例えば市販の音楽CDをMP3ファイルにして、ファイル交換ソフトを利用してファイルを送信した場合、著作権者、著作隣接権者の権利を侵害しますが、送信している人が権利を持っているファイルや、送信にあたって権利を持っている人から許諾を受けているのであれば当然違法にはなりません。個人が私的使用の目的でダウンロードする限りは合法と考えられますが(著作権法30条1項)、私的使用の目的で入手したソフトをさらに複製して第三者に頒布する場合は、複製権の侵害を行っていることになります(著作権法49条1項1号)。  我が国でファイル交換サービスを提供している会社が訴えられた事件としてはファイルローグ事件があります。ファイルローグはいわゆるハイブリッド型P2Pを用いたファイル交換サービスです。JASRACおよびレコード会社がそれぞれファイルローグサービスを提供していた会社と代表取締役を訴えていた仮処分申立事件で東京地裁はサービスを提供している会社の著作権侵害、著作隣接権侵害を理由にユーザーへのファイル情報の送信の差止めを認めました。さらに本案訴訟(正式な裁判)の中間判決では被告会社のサービス提供行為そのものが著作権侵害(自動公衆送信権および送信可能化権侵害)に該当するとし、被告らの損害賠償責任を認めました。ファイル交換そのものを行っているのはユーザーですが、①被告会社の行為の内容・性質、②ユーザーの行う送信可能化行為に対する被告会社の管理・支配の程度、③被告会社の行為によって受ける被告の利益の状況等を判断すれば、サービスを提供している被告会社自身が著作権侵害を行っている、という構成です。また、判決では被告会社が違法なMP3ファイルが交換されていることを知っていたことや著作権侵害を防ぐ措置を十分に講じていなかったことなどが認定されています。またこのサービスがいわゆるハイブリッド型であったことにも注意する必要があります。

Q3・アメリカと同様に、日本でもファイル共有サービスが合法と認められることはあるのでしょうか?

現状があまりに権利者を害するので権利者からみればファイル共有そのものが違法と思いたいのかもしれませんが、少なくともファイル共有そのものが違法なのではなく、使われ方によっては違法なのだということはまちがいありません。 平成15年2月に経済産業省から発表された電子商取引に関する準則(改定案)では、ファイルローグ事件の中間判決(東京地裁平成15年1月29日判決)を踏まえ、「①交換されるファイルにおいて、市販の音楽等の著作権侵害のファイルが大多数を占めている場合、②ユーザーの行う送信可能化行為に対するPtoPファイル交換サービス提供者の管理・支配の程度が大きいと判断される場合、③ PtoPファイル交換サービス提供者が、将来的に何らかの利益を図ってサービスを提供していると判断される場合の全てが該当する場合には、PtoPファイル交換サービスの提供者は、著作権又は著作隣接権侵害の責任を負う可能性があると解される。」としています。 ①の基準については、ユーザーに違法なファイル送信を行わないよう注意し、実際に違法な送信がなされなければ、それでよいのですが、実際には行われてしまうでしょう。サービスを提供する側が技術的に可能な範囲で十分なフィルタリングなどの措置をとることが必要となるでしょう。②の基準については、ハイブリッド型の場合には問題となりますがピュア型の場合にはユーザーの行う送信可能化行為に対する管理支配がそもそもできず問題とならないと思われます。ただ違法なファイルを交換できないようなソフトの配布が求められたりするのかもしれません。③の基準ですが、個人がまったくのボランティアで提供するならばともかく、会社がサービスを提供すれば「将来的に何らかの利益を図っている」と認定されるケースが多いと思われます。ファイル共有サービスの提供が合法であるかは、いかに①の要件をクリアするか、にかかってくると思います。

過去の事例 ベータマックス訴訟 1976年、ウォルトディズニー、ユニバーサルシティスタジオは、「録画機器の販売は消費者による映画の録画という著作権侵害行為の寄与侵害にあたる」として、ソニーを相手にベータマックスの輸入禁止、アメリカ国内での販売禁止を求めカリフォルニア連邦地裁へ提訴しました。同地裁ではソニーの勝訴、その後の控訴裁判所では、ベータマックスの頒布差止めが認められましたが、1984年米最高裁は裁判官5対4でベータマックスの使用はタイムシフトを行っている利用方法もあり実質的に著作権者の利益を侵害していない(フェアユースにあたる)として、ソニーが勝訴しました。

条文 (複製権) 第二十一条  著作者は、その著作物を複製する権利を専有する。 (公衆送信権等) 第二十三条  著作者は、その著作物について、公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。)を行う権利を専有する。 (私的使用のための複製) 第三十条  著作権の目的となつている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。 (複製物の目的外使用等) 第四十九条  次に掲げる者は、第二十一条の複製を行つたものとみなす。 一  第三十条第一項、第三十一条第一号、第三十五条、第三十七条第三項、第四十一条から第四十二条の二まで又は第四十四条第一項若しくは第二項に定める目的以外の目的のために、これらの規定の適用を受けて作成された著作物の複製物を頒布し、又は当該複製物によつて当該著作物を公衆に提示した者 (以下省略)

2015年6月26日 (金)

昔の原稿2003年6月版(不正アクセス等)

昔の原稿2003年6月版(不正アクセス等)

2003年6月に書いた雑誌用の原稿です。ご参考までに。

なお、当時の法律等に基づいていますので現在の法律や判例、ガイドライン、解釈と異なる可能性があります(12年前とは結構変わっています)

あくまで「過去の原稿」ということをご了承ください。

> Q.1 他人のパソコンを見ていたら、たまたまパスワードが残っていて、
>
   その人のアカウントにアクセスできてしまった。これは違法なの
>
   でしょうか?

 

 他人のIDやパスワードを利用して、その他人が利用しているサービスにアクセスする場合、不正アクセス禁止法に該当する場合があります。

平成12年2月13日に施行された「不正アクセス行為の禁止等に関する法律」(以下「不正アクセス禁止法」)では、「何人も、不正アクセス行為をしてはならない。」(同法第3条1項)と定め、また不正アクセス行為を助長する行為も同様に禁止しています(同法第4条)。この法律でいう「不正アクセス」とは同法第3条2項に掲げられた次のような場合をいいます。

① アクセス制御機能のあるコンピューターに、ネットワークを通じて、他人の識別符号(パスワードなど)を入力することによって利用を可能にする行為。いわゆるなりすまし行為などを想定しています。

② アクセス制御機能のあるコンピューターに、ネットワークを通じて、他人の識別符号以外の情報を入力することによって利用を可能にする行為。架空のID・パスワードの入力やセキュリティ・ホールへの攻撃などを想定しています。

③ 認証サーバーによって利用を制限されているコンピューターに関して、ネットワークを通じて、その制限を免れる情報を入力し、利用を可能にする行為。セキュリティ・ホールへの攻撃などを想定しています。

全ての場合について、「電気通信回線を通じて」と規定していますので、ネットワークなどを通じてアクセスする場合でなければこの法律の「不正アクセス」には該当しません。たとえば、会社の建物に忍び込んで、サーバーを直接操作する行為は、「不正アクセス」には該当しません。また、ネットワークに接続されていないスタンドアロンのコンピューターについては「不正アクセス」は成立しません。またここでいう「電気通信回線」はインターネットに限らず会社のLANなども含まれます。

なお、アクセス管理者自身が設備のチェックのために第3条2項に該当する行為を行っても「不正アクセス」には該当しません。またアクセス管理者の承諾がある場合(チェックを外部に委託する場合)も「不正アクセス」には該当しません。会社の場合、アクセス管理者は実際にその仕事を行う従業員ではなく、会社そのものがアクセス管理者となりますので注意が必要です。

また、①の場合には利用を許されているユーザー自身がIDとパスワードの利用を承諾している場合には「不正アクセス」にはなりません。本人の承諾を得ている以上「なりすまし」とはいえないからです。

「不正アクセス」を行った者に対しては、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金という罰則があります(不正アクセス禁止法8条1号)。

ご質問のケースの場合、他人の承諾なくそのID・パスワードを利用してその人の利用できるサービスにネットワークを通じてアクセスした行為は、不正アクセス禁止法第3条2項1号に該当しますので違法であり、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられる可能性があります。

なお、他人のIDやパスワードを第三者に伝える行為は不正アクセス行為を助長する行為として違法であり(不正アクセス禁止法第4条)、30万円以下の罰金に処せられる可能性があります(不正アクセス禁止法第9条)。ネット上で他人のIDとパスワードを流出させることは、プライバシー侵害の問題のみならず、不正アクセス禁止法に該当し違法ということになります。

 

この法律は、ネットワークを通じた不正アクセスそのものについて禁止していますが、その先に行われる可能性のある情報の書き換えや不正利用、情報流出などが実際に行われた場合にはさらに別の法律に該当する場合があります。

① 電子計算機損壊等業務妨害罪(刑法234条の2)

業務に使用するコンピューターのファイルを消去したり、書き換えたり、使用目的に反する動作をさせて業務を妨害する行為を行った場合に成立します。またコンピューターにウィルスに感染させて異常な動作をおこなわせ業務に支障を来すことになった場合にも成立しますし、ホームページを書き換えて業務を妨害した場合などにも成立します。

② 電子計算機使用詐欺罪(刑法246条の2)。コンピューターに虚偽の情報や不正な指令を与えて財産上不法な利益を得た場合に成立します。他人のインターネットバンキングのID・パスワードを使って他人の口座から自分や第三者の口座に現金を振り込んだ場合などが考えられます。

③ 私用文書等毀棄罪(刑法259条)

権利または義務に関する他人の電磁的記録を書き換えたり、消去する場合に成立します。他人の権利や義務に関しないファイルを消去したり書き換えたりした場合には成立しません。

④ 窃盗罪(刑法235条)の適用は?

他人の情報を覗き見たり、ファイルをコピーしたりする行為について窃盗罪が成立するか質問を受けることがありますが、窃盗罪は他人の「財物」(原則として有体物)を盗む場合に成立します。情報それ自体は他人の「財物」にはあたらないので、窃盗罪は成立しません。

⑤ 不正競争防止法

 平成15年5月23日に公布された不正競争防止法の改正によって、不正アクセスを行って会社などの営業秘密を不正に取得する行為について、不正アクセス禁止法だけでなく、不正競争防止法上も処罰されることになりました。平成16年5月23日までには施行される予定です。

 

> Q.2 「トロイの木馬」のような他人のパソコンを遠隔操作できるウイルス
>
   をしかけるのは違法なのでしょうか?

ウィルスをしかける行為としては、メールに添付する、不正アクセス行為を行って相手のコンピューターにウィルスをしかける、相手に渡すCD-ROMなどに混入しておく、などいろいろな方法が考えられます。不正アクセス行為によって相手のコンピューターにウィルスをしかける行為は、不正アクセスそれ自体が不正アクセス禁止法に該当します。

 では、ウィルスをしかけた結果、相手のコンピューターの遠隔操作を行える状態を作り出すことは違法でしょうか。この場合、刑法上は、電子計算機損壊等業務妨害罪(刑法234条の2)の適用が考えられます。

刑法234条の2は次のように定めています。「人の業務に使用する電子計算機若しくはその用に供する電磁的記録を損壊し、若しくは人の業務に使用する電子計算機に虚偽の情報若しくは不正な指令を与え、又はその他の方法により、電子計算機に使用目的に沿うべき動作をさせず、又は使用目的に反する動作をさせて、人の業務を妨害した者は、五年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する」。

 ここでいう「業務」とは、人が社会的生活を維持するうえで反復継続して行うものをいい、必ずしも収入を得るために行われることは必要ではありません。したがって、会社だけでなく個人のコンピューターに対しても成立する余地があります。トロイの木馬のようなウィルスをしかけるということは、感染したコンピューターの「使用目的に沿うべき動作をさせず、又は使用目的に反する動作をさせる」ことになります。ウィルスをしかけた結果として業務が妨害されることが必要ですが、ウィルスの駆除を強いることについては「業務を妨害した」といえるかもしれません。

 では「業務」に該当しない場合には何ら違法ではないでしょうか。仮に刑法上は違法ではないとしても、民法の不法行為(民法709条、ある人が故意または過失により加害行為を行い、その結果ほかの人に被害を与えた場合には、加害者は損害賠償責任を負う)に該当すると思われます。

 

> Q.3 無線LANで他人のパソコンの内容が覗けてしまいました。
>
   これは違法なのでしょうか。

 

 ESS-IDの設定、WEPなどの暗号化、MACアドレスの認証など基本的な設定すら行わず、丸見えの無線LANを構築している人や会社はまだまだ存在するようです。こだわる人は、ESS-IDも安心できない、WEPは脆弱だ、MACアドレスもなりすませる、ということで、さらにIPsecやPPTPなどを使っているかもしれませんが、そういうユーザーばかりではありません。ノートパソコンを持ち出して、アクセスポイントを探したら、「ANY」「空白」でも接続を許され、簡単にアクセスできてしまった、ということもあり得ることです。

 このような場合に、他人のパソコンをのぞいた行為は法律上どのような問題があるでしょうか。

① 不正アクセス禁止法の「不正アクセス」に該当するか

 「不正アクセス」はQ1で述べたように3つの類型がありますが、どの類型もアクセス制御がなされている必要があります。セキュリティの施されていない無線LANにたまたまアクセスできたとしても「不正アクセス」には該当しませんし、他人のパソコンの内容がのぞけてしまったということはそのパソコン自体も何らアクセス制御がなされていなかった、ということになりますのでやはり「不正アクセス」には該当しないことになります。

② 不法行為に該当するか

 Q2で述べたように民法上不法行為責任が成立するかですが、不法行為は、加害者が「故意または過失」によって加害行為を行うことが必要です。たまたま見えてしまったという状態は「故意」とは当然いえませんし、「過失」に該当するほどの注意義務が課せられているとは判断できないと思われます。

③ 一度アクセスできたことを利用して再度アクセスすることは違法か

 アクセス制御がなされていないわけですからやはり「不正アクセス」には該当しません。しかしながら、アクセス制御がなされていないことを利用して情報をのぞき見し続けることは、他人のプライバシーを侵害する場合もあり、程度によっては不法行為が成立することもあるかもしれません。

④ アクセスして得た情報を流出させた場合

 たまたまのぞき見してしまった他人のパソコンにあった情報などを流出させた場合、プライバシー権の侵害や名誉毀損(刑法230条)に該当する場合もあるでしょう。

 

 そもそもセキュリティの甘い無線LANの設定自体、自分の身を守っていないということなのですが、だからといって、それを知ったうえでセキュリティの甘い無線LANにアクセスするというのは問題といえるでしょう。

 

 

 

条文

 

不正アクセス行為の禁止等に関する法律

(不正アクセス行為の禁止)

第三条  何人も、不正アクセス行為をしてはならない。

  前項に規定する不正アクセス行為とは、次の各号の一に該当する行為をいう。

  アクセス制御機能を有する特定電子計算機に電気通信回線を通じて当該アクセス制御機能に係る他人の識別符号を入力して当該特定電子計算機を作動させ、当該アクセス制御機能により制限されている特定利用をし得る状態にさせる行為(当該アクセス制御機能を付加したアクセス管理者がするもの及び当該アクセス管理者又は当該識別符号に係る利用権者の承諾を得てするものを除く。)

  アクセス制御機能を有する特定電子計算機に電気通信回線を通じて当該アクセス制御機能による特定利用の制限を免れることができる情報(識別符号であるものを除く。)又は指令を入力して当該特定電子計算機を作動させ、その制限されている特定利用をし得る状態にさせる行為(当該アクセス制御機能を付加したアクセス管理者がするもの及び当該アクセス管理者の承諾を得てするものを除く。次号において同じ。)

  電気通信回線を介して接続された他の特定電子計算機が有するアクセス制御機能によりその特定利用を制限されている特定電子計算機に電気通信回線を通じてその制限を免れることができる情報又は指令を入力して当該特定電子計算機を作動させ、その制限されている特定利用をし得る状態にさせる行為

(不正アクセス行為を助長する行為の禁止)

第四条  何人も、アクセス制御機能に係る他人の識別符号を、その識別符号がどの特定電子計算機の特定利用に係るものであるかを明らかにして、又はこれを知っている者の求めに応じて、当該アクセス制御機能に係るアクセス管理者及び当該識別符号に係る利用権者以外の者に提供してはならない。ただし、当該アクセス管理者がする場合又は当該アクセス管理者若しくは当該利用権者の承諾を得てする場合は、この限りでない。

(罰則)

第八条  次の各号の一に該当する者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

  第三条第一項の規定に違反した者

  第六条第三項の規定に違反した者

第九条  第四条の規定に違反した者は、三十万円以下の罰金に処する。

 

 

 

刑法

(電子計算機損壊等業務妨害)

第二百三十四条の二  人の業務に使用する電子計算機若しくはその用に供する電磁的記録を損壊し、若しくは人の業務に使用する電子計算機に虚偽の情報若しくは不正な指令を与え、又はその他の方法により、電子計算機に使用目的に沿うべき動作をさせず、又は使用目的に反する動作をさせて、人の業務を妨害した者は、五年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。

 

(電子計算機使用詐欺)

第二百四十六条の二  前条に規定するもののほか、人の事務処理に使用する電子計算機に虚偽の情報若しくは不正な指令を与えて財産権の得喪若しくは変更に係る不実の電磁的記録を作り、又は財産権の得喪若しくは変更に係る虚偽の電磁的記録を人の事務処理の用に供して、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者は、十年以下の懲役に処する。

 

(私用文書等毀棄)

第二百五十九条  権利又は義務に関する他人の文書又は電磁的記録を毀棄した者は、五年以下の懲役に処する。

2015年6月25日 (木)

昔の原稿2003年4月版(出会い系サイト)

2003年4月に書いた雑誌用の原稿です。ご参考までに。

なお、当時の法律等に基づいていますので現在の法律や判例、ガイドライン、解釈と異なる可能性があります(12年前とは結構変わっています)

あくまで「過去の原稿」ということをご了承ください。

 

> Q1・出会い系サイトでメールなどで知り合った女性が

 

> 実はサクラで、しかも男性だった場合、訴えることは可能でしょうか?

 

 

 

サクラがいるということは有料のサイトだと思われます。有料の出会系サイトではサクラがいる場合があるという話も聞いています。昔のテレクラなどでもサクラがいたらしいですし、出会系サイトで知り合った異性と実際に街で出会ったら、実は高額商品のセールスだった、などという話も聞きます。金儲けのカモにされているという利用者もいるかもしれません。どんなサービスでも加入するときは冷静にしたいものです。さて、ある男性(仮にAさんとしましょう)が有料出会い系サイトに登録して、自称女性(Bさんとします)と知り合い、メールをやりとりしていたのにもかかわらず、実はBは男性だった場合、誰にどのように請求できるでしょうか。

 

 

 

まず、AからBに対して何か請求できるでしょうか。男性であるBを女性と信じてメールを交換していたAとしてはたまったものではありませんが、女性になりすます男性が多いのはネット上では常識のような気もします。精神的損害が認められる可能性は低く、仮に慰謝料が取れるとしても少額にとどまると思われます。もしどうしても訴えたいということであれば、簡易裁判所の民事調停や少額訴訟(30万円以下の金銭支払請求の場合に利用することができます)などを利用することが考えられます。

 

 

 

では、出会系サイトを主催している業者(Cとします)に対しては、何かいえるでしょうか。Cが「サクラはいません!」などと広告に記載して客を勧誘していた場合には、広告に反して実際にはサクラを使っていたわけですから、明らかに業者はウソをついていたといえます。AはCのウソの勧誘を信じてCと出会系サイト利用契約を締結したということになりますので、Aは保護されるべきだと思われます。

 

平成13年4月に施行された消費者契約法4条1項は、「消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対して次の各号に掲げる行為をしたことにより当該各号に定める誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。」と規定し、同項1号で「重要事項について事実と異なることを告げること。 当該告げられた内容が事実であるとの誤認」と規定していますので、Aは出会系サイト利用契約を取り消すことができるということになります。

 

また詐欺があったことを理由として出会系サイト利用契約を取り消したり(民法96条1項)、錯誤を理由として出会系サイト利用契約そのものが無効であったと主張することができるでしょう(民法95条本文)。既に支払った利用料についても契約当初に遡って支払うように請求することも可能だと思われます。

 

業者が任意に支払ってくれない場合には、裁判ということになります。この場合も、簡易裁判所の民事調停や少額訴訟などを利用すればよいと思います。

 

ただし、裁判に勝ったとしても、判決書は紙切れです。判決書を相手に突き付けても払ってくれるとは限りません。払ってくれない場合には、判決に基づいて強制執行(相手の預貯金、債権、動産、不動産を差し押さえて回収する)をすることができます。強制執行は相手の財産のありかがわかっている場合には有効ですが、相手の財産を発見できなければ強制執行することもできません。訴訟前に相手の財産(例えば預貯金、不動産)の所在がわかっていれば、裁判の前に仮差押などをして相手の財産が流出しないようにすることはできます。ただし、仮差押も強制執行もそれなりの費用(裁判所に払うお金)がかかってしまいます。結局のところ、裁判にかかるコストと回収の見込みを考える必要があります。

 

刑事の面では、詐欺罪(刑法246条)に該当するおそれがありますので、警察に被害届を提出することなども考えられます。

 

結局のところ、怪しそうなところ、危なそうなところには近づかないことです。

 

 

> Q2・出会い系サイトに入ってから迷惑メールが多くなった。

 

> サイトから情報が漏れていると思われるのですが?

 

> 個人情報が守られていない場合はどうすればいいのでしょうか?

 

 

 個人情報については、国際的には1980年9月にOECD理事会で勧告された個人情報保護の8原則、1995年10月のEU指令などでも十分な保護措置が図られるよう定められ、また日本でも1998年に当時の通商産業省によって策定された「民間部門における電子計算機処理に係る個人情報保護ガイドライン」でも適正な管理が求められています。

 

個人情報保護法案でも「適正な取扱いが図られなければならない」と規定されています(個人情報保護法案3条、いつ成立するのか不明ですが・・・)。個人情報の取扱いについては、これを適正に行おうとするまっとうな事業者と、あまり意識していない事業者、金儲けのためには個人情報を売る事業者がおり、ある程度の規模の事業者であれば、個人情報の流出に対する苦情にはそれなりに対応してくれるものと思われます。したがって、個人情報が流出したと思われる業者に対しては、まず苦情を申し入れるべきでしょう。また、個人情報の流出が当該事業者の故意または過失による場合には、損害賠償の請求(民法709条)も可能だと思われます。ただ、苦情を申し入れたところで、悪徳業者は行方不明になってしまうでしょうし、流れてしまった個人情報はもう元に戻すことはできません。個人情報やプライバシーの流出がなかったという状態には戻すことは不可能です。ですから、個人情報の流出先である迷惑メールの送信元に対してもメールの再送信の拒絶の申入れが必要になるかもしれません。ただ、悪徳業者の場合には、再送信の拒絶の申入れがあったということは逆に有効なメールアドレスであると判断し、もっと多くの迷惑メールが来る可能性もあるので再送信拒絶の申入れには注意が必要でしょう。二次被害の危険性もあるからです。

 

ちなみに、最近は「債権譲渡を受けたので顧問弁護士と相談した結果最終和解案を決定した」「遅延損害金(それも高額)を払え」「直接自宅・勤務先に取り立てに行く」などの悪質な債権回収メールが送られてくることもあるようです。このようなニセ請求メールは無視するに限ります。払う必要はありません。また、相手方に問い合わせをしたりしてさらにこちらの個人情報を与えてはいけません。そのような悪質な債権回収メールの送信は、詐欺罪(刑法246条)はもちろん、あまりに内容がひどければ恐喝罪(刑法249条)に該当しますので警察に相談することも有効です。

 

なお、参考までに、債権譲渡をする場合には、債権を譲渡する側から債務者に通知を出さなければなりません(民法467条1項)。債権の譲渡を受けた側から通知が来たとしてもほとんどの場合法的には意味がありません。また、消費者契約法9条2項が定めている遅延損害金の上限は年14.6パーセントですから、仮に遅延損害金を払うことになったとしても確認する必要があります。

 

 

 

> Q3・お金を払っていたのに、出会いのないままサイト自体が消滅してしまった。

 

> どう対処すればいいのでしょうか?

 

 

 

そのサイトを主催していた個人あるいは会社に既払い金の返還を求めることができますが、問題は主催者の名称や住所などがわかっているのかどうかです。明らかであれば配達証明付内容証明郵便(最近はインターネットを介して送ることができます)、簡易裁判所の支払督促命令や少額訴訟などを利用して請求することができます。では、名称や住所が不明確な場合はどうすればよいでしょうか。

 

 

 

まず考えられるのは「Whois」を使って主催者が利用していたドメインの管理者を特定することです。ドメインの管理者が主催者自身であれば、その管理者に請求すればよいのですが、単に主催者が利用していたプロバイダーであるということもあります。この場合、主催者が利用していたプロバイダーに協力を求められるか?という問題になります。

 

 

 

主催者が利用しているメールやサーバーのプロバイダーに対して

 

 

 

フリーメールなどの場合にはプロバイダー側でも契約者情報を把握していないことが多いでしょうが、通常は契約者の住所・氏名等は把握しているはずです。この場合、弁護士であれば、弁護士法23条の2に基づいてプロバイダーに照会を求めることができます。ただ、この照会に対してプロバイダーは電気通信事業法4条に定められた「通信の秘密」を根拠として回答を拒否することになるでしょう。

 

なお、プロバイダー責任制限法4条1項はプロバイダーに対して氏名、住所などの開示を請求することができる旨定めていますが、この開示は、「特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害された」場合に限定されています。例えば、情報の流通によって名誉を毀損されたとかプライバシー権の侵害があったとか、著作権や商標権を侵害された場合を想定しています。「サイトが消滅して被害を受けた」といった場合は、「情報の流通によって自己の権利を侵害された」とはいえませんので、この条文を使うことができません。

 

 

 

銀行に対して

 

 

 

主催者の銀行口座が判明している場合には、弁護士であれば、弁護士法23条の2に基づいて銀行に照会し銀行口座名義人の登録住所の照会を求めることができます。

 

 

 

クレジットカードを利用していた場合

 

 

 

クレジットカードで料金を支払っていた場合、サイトが消滅したにもかかわらず、そのままカード会社から請求が来てしまう、ということがあるかもしれません。この場合、まず、カード会社に対しては、カード加盟店である主催者が一方的にサービスを停止してしまったことやカード加盟店とは連絡が取れないことを伝え、こちらとしてはサービスの提供を受けていない以上、料金を支払う意思がないこと(「同時履行の抗弁」といいます、民法533条)を伝え、あるいはカード加盟店との間の契約の終了を主張して、引き落としを停止するようにカード会社に連絡することが必要です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

消費者契約法

 

(消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消し)

 

第四条  消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対して次の各号に掲げる行為をしたことにより当該各号に定める誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。

 

  重要事項について事実と異なることを告げること。 当該告げられた内容が事実であるとの誤認

 

  物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものに関し、将来におけるその価額、将来において当該消費者が受け取るべき金額その他の将来における変動が不確実な事項につき断定的判断を提供すること。 当該提供された断定的判断の内容が確実であるとの誤認

 

  消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対してある重要事項又は当該重要事項に関連する事項について当該消費者の利益となる旨を告げ、かつ、当該重要事項について当該消費者の不利益となる事実(当該告知により当該事実が存在しないと消費者が通常考えるべきものに限る。)を故意に告げなかったことにより、当該事実が存在しないとの誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。ただし、当該事業者が当該消費者に対し当該事実を告げようとしたにもかかわらず、当該消費者がこれを拒んだときは、この限りでない。

 

  略

 

  第一項第一号及び第二項の「重要事項」とは、消費者契約に係る次に掲げる事項であって消費者の当該消費者契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすべきものをいう。

 

  物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの質、用途その他の内容

 

  物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの対価その他の取引条件

 

  略

 

 

 

民法

 

第九十五条  意思表示ハ法律行為ノ要素ニ錯誤アリタルトキハ無効トス但表意者ニ重大ナル過失アリタルトキハ表意者自ラ其無効ヲ主張スルコトヲ得ス

 

第九十六条  詐欺又ハ強迫ニ因ル意思表示ハ之ヲ取消スコトヲ得

 

 以下略

 

 

 

刑法

 

(詐欺)

 

第二百四十六条  人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。

 

  前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。

 

(恐喝)

 

第二百四十九条  人を恐喝して財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。

 

  前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。

 

 

 

プロバイダー責任制限法

 

(発信者情報の開示請求等)

 

第四条  特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は、次の各号のいずれにも該当するときに限り、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者(以下「開示関係役務提供者」という。)に対し、当該開示関係役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る発信者情報(氏名、住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるものをいう。以下同じ。)の開示を請求することができる。

 

  侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき。

 

  当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき。

 

  以下略

 

2015年6月24日 (水)

昔の原稿2003年4月版(海賊版ソフトの購入)

2003年4月に書いた雑誌用の原稿です。ご参考までに。

なお、当時の法律等に基づいていますので現在の法律や判例、ガイドライン、解釈と異なる可能性があります(12年前とは結構変わっています)

あくまで「過去の原稿」ということをご了承ください。

 

> Q1・海賊版ソフトを購入した場合、
>
所持しているだけで問題はあるのでしょうか?
>
また、購入したこと自体はどうなのでしょうか?

 

海賊版ソフトを作成するということは、著作権者から複製権の許諾を受けていないにもかかわらず、複製行為を行うことになりますから、作成した者は複製権(著作権法21条)の侵害を行ったということになります。また、これを頒布しようとして輸入した者、権利侵害の事実を知りつつ頒布する目的で所持した者、権利侵害の事実を知りつつ実際に頒布した者は、複製行為を行ったわけではありませんが、著作権や著作隣接権を侵害する行為を行ったものとみなされます(著作権法113条1項1号および2号)。なお、「頒布」とは「有償であるか又は無償であるかを問わず、複製物を公衆に譲渡し、又は貸与すること」をいいます(著作権法2条1項19号)。

 

では、実際に海賊版を購入した者については違法な点があるでしょうか。実は著作権法上はこの点については全く規定がなく、著作権法上は少なくとも合法ということになります。ただし、海賊版を購入し、さらにこれを誰かに譲渡しようとする目的で所持することは、著作権侵害とみなされる行為です(著作権法113条1項2号)。また、海賊版を海賊版であることを知りつつ購入し、「業務上」使用することは著作権を侵害します(著作権法113条2項)。

 

違法か違法でないかということですと、海賊版ソフトを購入したとしても違法ではなく、頒布する目的なしに所持することも合法です。しかしながらこのような結論は著作権者にとってはあまりおもしろいものではないのは当然です。

 

 

 

使用権の立法化?

 

 

 

さて、前回、著作権法ではソフトの「使用権」というものがないということを書きました。仮に、著作権法に「使用権」の規定があると仮定してみましょう。この場合、著作権者だけがソフトの「使用権」を持ち、使用を希望する消費者は、著作権者と使用許諾契約を締結して使用許諾を受けなければ、ソフトを使用することができません。無断で使用すると使用権侵害すなわち著作権侵害を行ったことになるということになります。「使用権」がある場合、中古ソフト(例えばゲームCD)を購入しても、購入者はあらためて著作権者とライセンス契約を締結しなければソフトを使用できません。また、新品をお店から購入したとしても購入しただけではソフトを使用することはできず、ライセンス契約を結ばなければ、購入者はソフトの媒体の所有者であるにもかかわらずソフトを使用することはできないということになります。

 

現在の著作権法は、「使用権」の規定はありません。違法に複製されたプログラムの複製物を「業務上」使用することが禁止されているだけです(著作権法113条2項)。また、プログラムの複製物の所有者は、自ら当該著作物をコンピューターで利用するために必要と認められる限度で複製や翻案まで認められているのです(著作権法47条の2第1項)。

 

著作権法は著作物の「複製権」を中心に考えられてきました。ソフトの使用権や使用禁止権という方向での規定がなされなかったわけです。しかしながら、「海賊版を購入した者がそのソフトを使用することが権利侵害にならないのはおかしい」「使用権を制定しろ」と著作権者が立法に向けて働きかけることもできるわけです。これまで実際に「使用禁止権を認めるべきである」という提案がなされなかったわけではありません。

 

海賊版を購入することは違法ではない、使用することも違法ではない、だからといって、そのような人ばかりになれば、権利者はたまったものではありませんし、道義的にほめられるようなことでもないでしょう。海賊版には手を出さないようにお願いします。

 

 

 

> Q2・ネットからダウンロードして手に入る(ROMイメージや映画など)
>
を販売することは違法だと思うのですが、これを購入した場合
>
また、知らずに購入してしまった場合はどうなるのでしょうか?

 

ダウンロードできるようにサーバ上にROMイメージや映画のファイルなどを蔵置することは複製権や送信可能化権(著作権法2条1項9の5号)を侵害します。また、実際にダウンロードが行われれば公衆送信権(著作権法2条1項7の2号、同法23条)を侵害することになります。ダウンロードすることは著作権者の複製権を侵害することになりますが、私的使用目的の範囲内では複製権を侵害しません(著作権法30条1項)。しかしながら、販売目的でダウンロードすることは私的使用目的の範囲内とはいえませんから複製権を侵害します。また、私的使用目的でダウンロードしたものであってもその後頒布した場合には複製権を侵害することになります(著作権法49条1項1号)。

 

では、このようにネットを通じてダウンロードされ、複製権を侵害してできあがった海賊版を購入することは違法となるのでしょうか。

 

Q1と同様、著作権法上はこの点については全く規定がなく、ROMイメージや映画のファイルが納められたDVDやCDを購入することは著作権法上は少なくとも合法ということになります。ただし、海賊版を購入しただけでなく、さらにこれを誰かに譲渡しようとする目的で所持することは、著作権侵害とみなされる行為です(著作権法113条1項2号)。また、ROMイメージは、一種のプログラムといえます。著作権法113条2項は、「プログラムの著作物の著作権を侵害する行為によつて作成された複製物を業務上電子計算機において使用する行為は、これらの複製物を使用する権原を取得した時に情を知つていた場合に限り、当該著作権を侵害する行為とみなす。」と規定しています。したがって、海賊版であることを知りつつ購入し、この海賊版を「業務上」コンピューターで使用することは著作権侵害行為ということになります。

 

海賊版であることを知らないで購入したプログラムを家庭で使用することは問題ありません。仮にこれを使用できないとすると海賊版であることを知らずに購入した者の取引の安全を害することになるからです。また、海賊版であることを知っていて購入し家庭で使うことは問題のある行為ですが違法ではありません。家庭内での使用を禁止したとしても規制するための技術的手段があまりない結果、規制の実効性に乏しく、業務上の使用行為に限って法が使用禁止権を規定しているのです。

 

 

 

> Q3・知らずに買ったものが海賊版だった。
>
相手を訴えた場合はどうなるのでしょうか?
>
また、具体的に相手を訴えるにはどうすればいいのでしょうか?

 

 

 

1 正規のパッケージだと思ったら海賊版だった、という場合にはどのように解決すればよいのでしょうか。まず、購入したお店や相手方にきちんとした正規のパッケージと交換するよう求めましょう。相手が応じないような場合には、相手との間の売買契約を債務不履行を理由にして解除し、返金を求めることができます。

 

また「正規品だと思って購入したにもかかわらず海賊版だと判明した。海賊版だったら購入することはなかった」という場合には、錯誤による売買契約の無効(民法95条)を主張して返金を求めましょう。

 

あるいは、売主がそもそも海賊版であることを隠して、あたかも正規品だという売り方をしている場合には、詐欺を理由にして売買契約の取消し(民法96条)を主張して返金を求めましょう。

 

錯誤無効を主張したり詐欺取消を行う場合には内容証明郵便を利用すると便利です。内容証明郵便は最近はインターネットからも送ることができるようになっています(電子内容証明郵便サービスhttp://www3.hybridmail.jp/mpt/)。

 

2 内容証明郵便を送っても、こちらの主張を相手が受け入れない場合には法的手段を採ることもできます。

 

 ① 民事調停

 

まず考えられるのは、調停を申し立てることです。調停というと家庭裁判所で取り扱っている離婚や相続の調停が有名ですが、ここでの調停は、「民事調停」といい、家庭裁判所ではなく、原則として相手方の住所地を管轄する簡易裁判所に申し立てます。調停ですからあくまでも話し合いの場所であり、相手方が話し合いに応ずることが前提ですが、話し合いがまとまれば調停調書が作成されます。調停調書は判決と同じ効力があり、相手方が調停条項に違反すれば強制執行を申し立てて金銭の回収を図ることができます。

 

 ② 少額訴訟

 

これも簡易裁判所を利用する手続です。この訴訟は、30万円以下の金銭の支払を求める訴えについて、原則として1回の審理で紛争を解決するものです。少額訴訟では、原則として1回の期日で審理を終え、直ちに判決の言渡しがされます。

 

 ③ 通常訴訟

 

   普通に「訴訟」というとこれを指します。訴額が90万円以下ですと簡易裁判所、90万円を超える場合には地方裁判所の管轄となります。訴状を管轄の裁判所に提出すると裁判所は被告に訴状の副本を送達し、被告に答弁書の提出と第1回口頭弁論期日に裁判所へ出頭するよう求めます。被告が答弁書を提出せず第1回口頭弁論期日に欠席すれば、原告勝訴の判決が出されることになりますが、被告が答弁書を提出したり、第1回口頭弁論期日に出席して訴状の内容を争えば、その後の手続で原告、被告が主張と証拠を出し合っていきます。普通ですと裁判官の方から和解の勧告があるはずですが、お互いに妥協するポイントが何もないと判決に向けて手続が進行します。和解が成立した場合には、和解調書が作成されます。これは判決と同様の強制力を持ちます。

 

 ④ 執行

 

和解が成立したり勝訴判決を得たとしても相手方からお金を支払ってもらわなければ目的を達成したことにはなりません。和解したり勝訴判決を得たにもかかわらず相手方が支払ってくれない場合には、相手方の財産(不動産、預貯金、債権)などを差し押さえて強制執行する必要があります。

 

3 刑事

 

  著作権の侵害があった場合、侵害者には罰則があります(著作権法119条1号)。ただし、これは親告罪といい、著作権者の告訴がなければ起訴することができない類型の犯罪です(著作権法123条1項)。海賊版を買わされた被害者は著作権者ではありませんので、直接告訴をすることはできません。ただし、正規版だと思っていたのに海賊版を買わされた場合には、詐欺罪(刑法246条1項)に該当する可能性がありますので、詐欺の被害にあった旨警察に被害届を出すことが考えられます。

 

 

 

 

 

過去の事例

 

 

 

2003年1月、岡山県警と岡山南署は、ネットオークションを通じて海賊版ソフトCD-Rを販売した男性会社員を著作権法違反の疑いで逮捕。2月には香港から輸入したとみられるアニメ「星界の紋章」の海賊版DVDをネットオークションを通じて販売した男性会社員が著作権法違反の疑いで警視庁荻窪署に逮捕されたとのことです。

 

 

 

 

 

条文

 

 

 

(複製物の目的外使用等)

 

第四十九条  次に掲げる者は、第二十一条の複製を行つたものとみなす。

 

  第三十条第一項、第三十一条第一号、第三十五条、第三十七条第三項、第四十一条から第四十二条の二まで又は第四十四条第一項若しくは第二項に定める目的以外の目的のために、これらの規定の適用を受けて作成された著作物の複製物を頒布し、又は当該複製物によつて当該著作物を公衆に提示した者

 

  第四十四条第三項の規定に違反して同項の録音物又は録画物を保存した放送事業者又は有線放送事業者

 

  第四十七条の二第一項の規定の適用を受けて作成された著作物の複製物(次項第二号の複製物に該当するものを除く。)を頒布し、又は当該複製物によつて当該著作物を公衆に提示した者

 

  第四十七条の二第二項の規定に違反して同項の複製物(次項第二号の複製物に該当するものを除く。)を保存した者

 

2 略

 

 

 

(侵害とみなす行為)

 

第百十三条  次に掲げる行為は、当該著作者人格権、著作権、出版権、実演家人格権又は著作隣接権を侵害する行為とみなす。

 

  国内において頒布する目的をもつて、輸入の時において国内で作成したとしたならば著作者人格権、著作権、出版権、実演家人格権又は著作隣接権の侵害となるべき行為によつて作成された物を輸入する行為

 

  著作者人格権、著作権、出版権、実演家人格権又は著作隣接権を侵害する行為によつて作成された物(前号の輸入に係る物を含む。)を情を知つて頒布し、又は頒布の目的をもつて所持する行為

 

  プログラムの著作物の著作権を侵害する行為によつて作成された複製物(当該複製物の所有者によつて第四十七条の二第一項の規定により作成された複製物並びに前項第一号の輸入に係るプログラムの著作物の複製物及び当該複製物の所有者によつて同条第一項の規定により作成された複製物を含む。)を業務上電子計算機において使用する行為は、これらの複製物を使用する権原を取得した時に情を知つていた場合に限り、当該著作権を侵害する行為とみなす。

 

 

 

第百十九条  次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。

 

  著作者人格権、著作権、出版権、実演家人格権又は著作隣接権を侵害した者(第三十条第一項(第百二条第一項において準用する場合を含む。)に定める私的使用の目的をもつて自ら著作物若しくは実演等の複製を行つた者又は第百十三条第三項の規定により著作者人格権、著作権、実演家人格権若しくは著作隣接権(同条第四項の規定により著作隣接権とみなされる権利を含む。第百二十条の二第三号において同じ。)を侵害する行為とみなされる行為を行つた者を除く。)

 

  営利を目的として、第三十条第一項第一号に規定する自動複製機器を著作権、出版権又は著作隣接権の侵害となる著作物又は実演等の複製に使用させた者

 

 

 

第百二十三条  第百十九条、第百二十条の二第三号及び第百二十一条の二の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。

 

  無名又は変名の著作物の発行者は、その著作物に係る前項の罪について告訴をすることができる。ただし、第百十八条第一項ただし書に規定する場合及び当該告訴が著作者の明示した意思に反する場合は、この限りでない。

 

2015年6月22日 (月)

昔の原稿2003年3月版(エミュレータは違法なのか?)

2003年3月に書いた雑誌用の原稿です。ご参考までに。

なお、当時の法律等に基づいていますので現在の法律や判例、ガイドライン、解釈と異なる可能性があります。あくまで過去の原稿ということをご了承ください。

> Q1・エミュレータは違法なのか?

エミュレータはパソコン上で別のハードウェアの機能を再現し、別のハードウェアのソフトウェアを実行するためのソフトウェアをいいます。最近は、MSXの公式エミュレータが発表されていますね。実機のハードウェアのエミュレーションとともに実機のソフトウェアのエミュレーションが行われる場合が多いと思われますが、問題の多くはソフトウェアのエミュレーション、特にBIOS(Basic Input/Output System)の問題が大きいように思われます。各ゲーム機にはそれぞれパソコンと同様にBIOSがあります。エミュレータに搭載するBIOSを自力で開発する場合には問題ありませんが、パソコンやゲーム機のBIOSを複製してエミュレータに組み込むことは、仮に複製が一部だとしてもBIOSの著作権者の複製権(著作権法21条)の侵害となります。 エミュレータ作成者が独自に開発するのは問題がないのですが開発過程において元のハードウェアのBIOSをリバースエンジニアリングすることについては、それが著作権者の複製権の侵害に該当しないかが問題となります。コンピュータ上で行われるだけであるならばメモリーへの蓄積は複製には該当しないと解釈されているので問題は少ないのですが、プリントアウトしたりハードディスクに記録するなどの場合は複製には該当します。私的使用目的の複製は著作権者の許諾なくして行うことができます(著作権法30条1項)。ケースバイケースですが、形式的には、他人に公開する意図があってリバースエンジニアリングを行うことは、私的使用目的とはいえないでしょう。私的使用目的の複製でなければ違法な複製となります。また、他人に配布することを意図しているのであれば、著作権法47条の2第1項の適用もありません。したがって、形式的にはリバースエンジニアリングの結果を他人に配布することを予定している場合などは、著作権法上、違法ということになりそうです。プレイステーションのエミュレータを販売したコネクティクス社とソニー・コンピュータ・エンタテイメント社との間で争われたアメリカでの裁判では、コネクティクスによるBIOSのリバースエンジニアリングは、フェアユースにあたるので違法ではないとの判断がなされたようですが、日本の著作権法にはアメリカのようにフェアユースという概念がありません。 もっとも特許法69条1項、半導体集積回路の回路配置に関する法律12条2項はリバースエンジニアリングを認めていると解釈できるので、著作権法上も一定の場合にはリバースエンジニアリングを合法と考えていくべきだという解釈もあります。 エミュレータで実機のBIOSを必要とする場合、使用する者が所有する実機のBIOSをファイル化することは私的使用目的の範囲内では合法といえますが、このファイルを配布した場合などは配布した時点で私的使用目的ではないものとみなされます(著作権法49条1項1号)。また、使用許諾契約によっても拘束される場合がありますので注意が必要です。

> Q2・エミュレータ上でゲームをプレイすることは違法なのか?

ソフトウェアをパソコン上で動かすということは、ソフトウェアをパソコンのメモリに複製することを伴いますが、日本ではソフトウェアを使用する際にメモリ上にソフトウェアが複製されることは一時的蓄積にすぎないとして、著作権法21条の「複製」とは考えられていません。ですからハードディスクへのインストールを伴わない限り権利者の「複製権」を侵害しません。また、ソフトウェアの「使用権」なるものは法律上存在しないので、あるソフトウェアをパソコンで使用することは法律上は著作権者の許諾を必要としません。ソフトウェアに関する「使用権」という言葉は、日本の著作権法では一切存在しないにもかかわらず(著作権法113条2項は、著作権を侵害する行為によって作成されたソフトウェアの複製物を業務上使用することは、権利侵害の事実を知ってその複製物を取得した場合に限って著作権侵害行為とみなす旨規定しています。これを「使用禁止権」という場合もあります)、一般に広まっているのは、外国の契約書をそのまま日本語に翻訳したり、権利者の保護のために、あえて使用許諾契約書(ライセンス契約書)で、法律には存在しない「使用許諾」「使用権」という言葉を用いてきたためだと思われます。著作権法の建前からいえば、ソフトウェアの複製物(FD、CD、カセット)の所有者は、自由に当該ソフトウェアを使用することができるのです。私的使用目的を超えて複製することは当然認められませんが。 もちろん、私的自治の原則から権利者とユーザの当事者間で法律には存在しない権利・義務を作り出すのは公序良俗に反しない限り自由です。ですから使用許諾契約を当事者間で締結したのであれば当事者はその使用許諾契約に拘束されることになります。使用許諾契約というのは、ソフトウェアの複製物の所有者(ユーザ)に権利を与える契約ではありません。そもそも法律上はソフトウェアを使用するのは自由なのですから。コンピュータソフトウェアの使用許諾契約というのは名前とは逆にユーザを縛るための契約と解釈せざるを得ません。 ではソフトウェアの購入者は購入した段階あるいはソフトウェアのパッケージを破った段階で権利者との間で使用許諾契約を無理矢理締結させられていることになるのでしょうか?ソフトウェアの場合に問題になるのがシュリンクラップ契約とクリックオン契約です。シュリンクラップ契約およびクリックオン契約において有効に契約が成立したのかどうかはかなり問題のあるところです。現在では適切な方法による限り有効に成立していると考える専門家が多いようですが有効ではないとする意見もあります。仮に有効に成立したとしても消費者契約法10条では消費者の利益を一方的に害する条項は無効だとしていますので、シュリンクラップ契約やクリックオン契約が成立していたとしても契約の条項の内容があまりにユーザに不利益な場合にはその条項が無効である、と解釈する余地もあります。  結論としては、法律上は、エミュレータを利用することは合法ですし、エミュレータ上でゲームのCD-ROMを起動することは合法です。また、バックアップされたCD-ROM、ゲームカセットを起動することは問題ありません。ゲーム中の画面や音声を録画・録音することも私的使用目的の範囲内である限り合法です。 ただし、著作権法上は違法でなくても、使用許諾契約によって許されていない行為もありますので使用許諾契約の内容には十分注意してください。著作権法違反ではないが契約違反という場合もあるのです。また、著作権法113条2項は、著作権を侵害する行為によって作成されたソフトウェアの複製物を「業務上」使用することまでは認めていないことに注意してください。

> Q3・ROMイメージは所持しているだけで違法になるのか?

まずROMの吸出しは合法か違法かという問題があります。吸出し機でゲームカートリッジからデータを吸い出してROMイメージを作成することはプログラムの複製に該当しますので、著作権者の許諾がなければ行うことはできません。しかしながら、著作権法30条1項が規定するように私的使用目的の範囲内であれば、著作権者の許諾なくして複製することはできます。 なおコピーコントロールを解除した場合には、私的使用目的であっても複製は許されません(著作権法30条1項2号)。  ROMイメージをサーバにおいたりファイル交換ソフトを利用して送信できるような状態におくことや実際に送信することは違法です。ROMイメージを送信するためにサーバにおくことは、著作権者の複製権および送信可能化権(著作権法23条1項)を侵害します。またファイル交換ソフトの共有フォルダにROMイメージをおいた場合には、そのROMイメージの作成が当初は私的使用目的だったとしても、おいた時点で私的使用目的ではなかったものとみなされ(著作権法49条1項1号)、著作権者の複製権を侵害しますし、また著作権者の送信可能化権を侵害することになります。実際に誰かがダウンロードしたりした場合には、ファイルをサーバにおいたり共有フォルダにおいた者は公衆送信権(著作権法23条1項)を侵害したことになります。  では、ダウンロードすることには問題ないのでしょうか。権利者の許諾なくサーバにおかれたり共有フォルダにおかれているファイルは、アップロードしたり共有フォルダにおいた行為自体が既に違法ですので、違法に複製されたROMファイルをダウンロードしたことになります。ダウンロードすることは自分のパソコンにROMイメージを複製することになりますから、原則としては著作権者の許諾が必要です。但し、私的使用目的の範囲内では著作権者の許諾がなくとも技術的保護手段の回避をおこなわなければ複製することができます。ダウンロードしたROMファイルを使用して遊ぶことを制限する法律はありませんので、これも合法という結論になります。アップロード等の行為は明らかに著作権を侵害するが、私的使用目的の範囲内のダウンロードおよび利用は違法ではないということになってしまいます。ダウンロードについては私的使用目的の範囲内をよほど狭く解するのであれば違法ということになるでしょう。また、ダウンロードしたソフトをさらに私的使用目的の範囲を超えて複製したり、送信可能化した場合には、私的使用目的ではなかったと評価され違法な複製を行ったことになります。 また著作権法113条2項は「プログラムの著作物の著作権を侵害する行為によつて作成された複製物(略)を業務上電子計算機において使用する行為は、これらの複製物を使用する権原を取得した時に情を知つていた場合に限り、当該著作権を侵害する行為とみなす。」と規定しています。違法にアップロードされたROMイメージを違法に複製されたと知りながらダウンロードし「業務上」使用することは違法になります。この「業務」の解釈によっては、個人で使用することも違法になる余地はありますが、家庭内の使用まで含む解釈はなかなか難しいものがあります。

著作権法

(複製権) 第二十一条  著作者は、その著作物を複製する権利を専有する。

(公衆送信権等) 第二十三条  著作者は、その著作物について、公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。)を行う権利を専有する。  2  著作者は、公衆送信されるその著作物を受信装置を用いて公に伝達する権利を専有する。

(私的使用のための複製) 第三十条  著作権の目的となつている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。  一  公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器(複製の機能を有し、これに関する装置の全部又は主要な部分が自動化されている機器をいう。)を用いて複製する場合  二  技術的保護手段の回避(技術的保護手段に用いられている信号の除去又は改変(記録又は送信の方式の変換に伴う技術的な制約による除去又は改変を除く。)を行うことにより、当該技術的保護手段によつて防止される行為を可能とし、又は当該技術的保護手段によつて抑止される行為の結果に障害を生じないようにすることをいう。第百二十条の二第一号及び第二号において同じ。)により可能となり、又はその結果に障害が生じないようになつた複製を、その事実を知りながら行う場合  2  略

(プログラムの著作物の複製物の所有者による複製等) 第四十七条の二  プログラムの著作物の複製物の所有者は、自ら当該著作物を電子計算機において利用するために必要と認められる限度において、当該著作物の複製又は翻案(これにより創作した二次的著作物の複製を含む。)をすることができる。ただし、当該利用に係る複製物の使用につき、第百十三条第二項の規定が適用される場合は、この限りでない。  2  前項の複製物の所有者が当該複製物(同項の規定により作成された複製物を含む。)のいずれかについて滅失以外の事由により所有権を有しなくなつた後には、その者は、当該著作権者の別段の意思表示がない限り、その他の複製物を保存してはならない。

(複製物の目的外使用等) 第四十九条  次に掲げる者は、第二十一条の複製を行つたものとみなす。  一  第三十条第一項、第三十一条第一号、第三十五条、第三十七条第三項、第四十一条から第四十二条の二まで又は第四十四条第一項若しくは第二項に定める目的以外の目的のために、これらの規定の適用を受けて作成された著作物の複製物を頒布し、又は当該複製物によつて当該著作物を公衆に提示した者  二  第四十四条第三項の規定に違反して同項の録音物又は録画物を保存した放送事業者又は有線放送事業者  三  第四十七条の二第一項の規定の適用を受けて作成された著作物の複製物(次項第二号の複製物に該当するものを除く。)を頒布し、又は当該複製物によつて当該著作物を公衆に提示した者  四  第四十七条の二第二項の規定に違反して同項の複製物(次項第二号の複製物に該当するものを除く。)を保存した者  2  略

(侵害とみなす行為) 第百十三条  第2項  プログラムの著作物の著作権を侵害する行為によつて作成された複製物(当該複製物の所有者によつて第四十七条の二第一項の規定により作成された複製物並びに前項第一号の輸入に係るプログラムの著作物の複製物及び当該複製物の所有者によつて同条第一項の規定により作成された複製物を含む。)を業務上電子計算機において使用する行為は、これらの複製物を使用する権原を取得した時に情を知つていた場合に限り、当該著作権を侵害する行為とみなす。

特許法

(特許権の効力が及ばない範囲) 第六十九条  特許権の効力は、試験又は研究のためにする特許発明の実施には、及ばない。

半導体集積回路の回路配置に関する法律 (回路配置利用権の効力が及ばない範囲) 第十二条 第2項  回路配置利用権の効力は、解析又は評価のために登録回路配置を用いて半導体集積回路を製造する行為には、及ばない。

2015年6月19日 (金)

昔の原稿2003年1月版(CD・DVDのコピー)

2003年1月に書いた雑誌用の原稿です。ご参考までに。

なお、当時の法律等に基づいていますので現在の法律や判例、ガイドライン、解釈と異なる可能性があります。あくまで過去の原稿ということをご了承ください。

特に著作権法は改正がありましたので注意が必要です。

> Q1・何かと話題のCCCD(コピーコントロールCD)は
>
私的利用を目的とした複製を作ると違法になるのか?
>
文字通り、コピーを規制するための技術を組み込んでいるわけですが
> CD
ドライブによっては再生ができなかったり、ドライブに支障をきたす
>
こともあるとされています。
>
そのため、バックアップをとって楽しみたいというユーザーもいると思います。
>
このとき、私的利用を目的として複製を作っても問題があるのでしょうか?
>
また、
>
・リッピングソフトを使うこと自体にも問題があるのでしょうか?
>
CCCDは、プロテクトデータエリアをセロテープを貼って遮断することで
>
プロテクトを回避(機能させない)こともできるのですが、
>
この方法を使うことも問題があるのでしょうか?

著作権者には複製権(著作権法21条)がありますので、権利者の許諾を得ずに複製することは、原則として複製権を侵害します。複製権は制約を受ける場合があり、私的使用目的の場合には、複製を行ったとしても権利者の複製権を侵害しないことになっています(著作権法30条1項本文)。しかしながら、平成11年の著作権法改正により、技術的保護手段の回避によって可能となった複製を、その事実を知りながら行う場合については、著作権法30条1項本文で許容される複製の範囲から除外されることとなりました(著作権法30条1項2号)。

技術的保護手段とは「電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によつて認識することができない方法により、著作者人格権若しくは著作権又は著作隣接権を侵害する行為の防止又は抑止をする手段であつて、著作物、実演、レコード、放送又は有線放送の利用に際しこれに用いられる機器が特定の反応をする信号を著作物、実演、レコード又は放送若しくは有線放送に係る音若しくは影像とともに記録媒体に記録し、又は送信する方式によるもの」をいいます(著作権法2条1項20号)。また、技術的保護手段の回避とは「技術的保護手段に用いられている信号の除去又は改変(記録又は送信の方式の変換に伴う技術的な制約による除去又は改変を除く。)を行うことにより、当該技術的保護手段によつて防止される行為を可能とし、又は当該技術的保護手段によつて抑止される行為の結果に障害を生じないようにすること」をいいます。音楽CDの場合ですと、SCMS(Serial Copy Management System)という方式が採用されており、音楽CDからMDにダビングする場合に何世代までダビングを許すかという信号が含まれています。なお、パソコン上で音楽CDをWAVやMP3ファイルにするような場合には、これらのファイルにSCMSの信号は記録されませんが、これは「記録又は送信の方式の変換に伴う技術的な制約」に該当するので技術的保護手段の回避にはあたりません。

では、最近流通しているCCCDはどうでしょうか。CCCDについては、法律的には複製を阻止するために通常の音楽CDとは異なった「信号」が用いられていると評価されることになると思われます。CCCDという技術的保護手段をとっている音楽CDについては、特に問題なくコピーできてしまうパソコン(CD-ROMドライブ)やコピーソフトがあるようです。このような場合には、そのパソコン(CD-ROMドライブ)がそもそも「信号」に反応しないわけで(「無反応機器」と呼ばれています)、あえて「信号」を除去したり改変しているわけではありませんから、技術的保護手段を回避しているとはいえず、私的使用目的である限り、複製は合法となります。またCCCD全体をそのまま完全に複製することが可能であれば、「信号」を除去したり改変しているわけではないので、私的使用目的であれば合法と判断されると思われます。

では、CCCDのプロテクトデータエリアと呼ばれる場所に粘着テープを貼ることでプロテクトを回避することはどうでしょうか。この場合、あえて技術的保護手段に用いられている「信号」を除去していると評価されると考えられますので、たとえ私的使用目的であったとしても違法となります。

 完全に複製すると合法で、そうでない場合(「信号」の除去や改変)は違法というのは結論としてはかなり不思議な気もします。また「私的使用目的」に該当するかというのもかなりあいまいな概念で、線引きは極めて難しいところです。

 

> Q2・プロテクトのかかっているものは、すべて私的利用を目的としても
>
コピーや吸出し(リッピング)をすると違法になるのか?
>
違法になるとすれば、どのような罪になるのか?

Q1で触れたとおり、私的使用目的の複製は合法ですが、技術的保護手段を回避して行った複製は仮に私的使用目的であったとしても著作権者の複製権を侵害します。まとめると次のとおりです。

① 私的使用目的でない複製をした場合には、複製権(著作権法21条)の侵害にあたります。したがって3年以下の懲役又は300万円以下の罰金(著作権法119条1号)という罰則があります。民事上は、差止め(著作権法112条)の対象となり、損害賠償責任(民法709条)を負うことになります。

② 私的使用目的であり、かつ技術的保護手段を回避せずに複製した場合(著作権法30条1項)には合法であり、何ら法的責任を負いません。

③ 私的使用目的ではあるが技術的保護手段を回避して複製した場合(著作権法30条1項1号)、罰則はありません(著作権法119条1号は私的使用のために複製を行った者を除いているため)。民事上は差止め(著作権法112条)の対象となり、損害賠償責任(民法709条)を負うことになります。

④ 技術的保護手段を回避することを専らその機能とする装置、もしくは、技術的保護手段の回避を行うことを専らその機能とするプログラムの複製物を公衆に譲渡し、若しくは貸与し、公衆への譲渡若しくは貸与する目的をもって製造し、輸入し若しくは所持し、若しくは公衆の用に供し、又は当該プログラムを公衆送信し、若しくは送信可能化した場合には、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処せられます(著作権法120条の2第1号)。

⑤ 業として公衆からの求めに応じて技術的保護手段の回避を行った場合には、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処せられます(著作権法120条の2第2号)。

 

> プロテクトのかかっているものは複製を作る時点で問題があるのでしょうか?
>
最近はDVDの普及にともない、DVDのコピーに関してユーザーの関心が
>
高まっていますので、特にDVDに関してはどうなのでしょうか?

DVDで使用されている技術としてはマクロビジョン方式(デジタルシンクパルス方式)、CGMS(Copy Generation Management System)、DTCP(Digital Transmission Content Protection)、CSS(Content Scramble System)などがあります。CSSなどは複製を防ぐというよりは、衛星放送のスクランブルのようなものなので(アクセスコントロール)、著作権法上の問題ではなく不正競争防止法の問題だと思うのですが、著作権法上の技術的保護手段と考える人もいるようです。

DVDプレイヤーからアナログビデオにダビングする場合にはマクロビジョン方式が、またDVDプレイヤーからDVDレコーダーにダビングしようとする場合にはCGMSが働くことになります。これらの信号を除去したり改変して複製を行う場合には仮に私的使用目的であったとしても違法ということになります。では、パソコン上でプロテクトのかかったDVDの映像をコピーする場合はどうでしょうか。これらのプロテクトのための信号をリッピングソフトを使用して、あえて除去、改変するのであれば、技術的保護手段の回避ということになります。結論としては、コピープロテクトのかかったDVDをリッピングすることは、たとえ私的使用目的であったとしても違法である、と考えておいた方が無難でしょう。

 

> Q3CD媒体ではないゲームソフト(ゲームボーイアドバンスなどのカセット)から
>
データを吸い出すのは違法になるのか?
>
吸い出すことでパソコンの大きな画面(エミュレータ)で遊ぶということも
>
考えられるわけですが、この行為自体は違法になるのでしょうか?

 そもそも権利者の許諾を得ていないエミュレータについては、合法か違法かという議論があります。もとのハードのリバースエンジニアリングの過程での違法性などの問題などがありますが、ここではエミュレータ自体の違法性については割愛します。

 エミュレータ上で動かすためのカセットからのデータの吸い出しについてですが、まず考えられるのが著作権法47条の2に該当するのではないかとの疑問です。この条文は次のように定めています。「プログラムの著作物の複製物の所有者は、自ら当該著作物を電子計算機において利用するために必要と認められる限度において、当該著作物の複製又は翻案(これにより創作した二次的著作物の複製を含む。)をすることができる」。この条文を読むと、プログラムの著作物の複製物であるゲームカセットの所有者であるユーザーは、自分のパソコンでこのゲームプログラムを動かすために、このゲームプログラムを必要最小限度で複製や翻案ができるようにも読めます。このように解釈すると、あくまでも自分でゲームプログラムを使用するためにデータを吸い出すことは合法であるようにも思えます。

しかしながら、ユーザーとゲームメーカーとの間で使用許諾契約によりこのような行為が制限されている場合があること(もっとも使用許諾契約といってもシュリンクラップ方式なので有効なものではない、という見解もあります)、ゲームカセットは本来そのゲーム機上で使われることが予定されており、データの吸い出しは「利用するために必要と認められる限度」とはいえないと考えられることから、たとえバックアップ目的であったとしてもこの条文の予定する場合とはいえないでしょう。

では自分の所有しているカセットからゲームプログラムを吸い出すことは私的使用目的なので著作権法30条に該当し、複製権を侵害しないことになるのでしょうか?吸い出したプログラムを他人に譲渡したり交換する目的で吸い出すことは当然私的使用目的とはいえず違法となります。では、あくまでも自分で使う目的である場合にはどうでしょうか。著作権者の予定した通常の利用ではなく、著作権者の正当な利益を害するので私的使用目的に該当しないとの考えもある一方で、あくまで自分で楽しむためだけの目的であるならば私的使用目的に該当するとの考えもあります。ただ、権利者を保護する現在の裁判の方向からいくと私的使用目的とはいえないように思われます。

 

> 海外では専用の吸出し機器が発売されています。
>
また、海外からこれらの商品を購入(輸入)することも違法になるのでしょうか?

自分で使うために輸入するのであれば、輸入行為それ自体は違法とはなりません。ただし、技術手保護手段を回避する吸出し機器を「販売する」などの目的で輸入することは認められません(著作権法120条の2第1号)。

では技術的保護手段の回避を行っていない機器の場合はどうでしょうか。ユーザーが自分のパソコン上でプレイするために吸い出すことが私的使用目的の複製に該当し適法であると考えれば輸入することは問題ないということになるでしょう。

しかしながら、私的使用目的に該当しないという考え方をとるのであれば、そもそも吸い出しが違法となり、機器を「販売」したりする目的で行う輸入行為はその違法な吸い出し行為を助長するものと判断されることもあるかもしれません。この考え方をとった場合には、吸い出し機器を自分で使う目的で輸入する場合には輸入行為自体は違法ではないが、吸い出し行為を実際に行うと違法と判断されると思われます。

 

条文

著作権法

(私的使用のための複製)
第三十条  著作権の目的となつている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。
 
 一  公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器(複製の機能を有し、これに関する装置の全部又は主要な部分が自動化されている機器をいう。)を用いて複製する場合
 
 二  技術的保護手段の回避(技術的保護手段に用いられている信号の除去又は改変(記録又は送信の方式の変換に伴う技術的な制約による除去又は改変を除く。)を行うことにより、当該技術的保護手段によつて防止される行為を可能とし、又は当該技術的保護手段によつて抑止される行為の結果に障害を生じないようにすることをいう。第百二十条の二第一号及び第二号において同じ。)により可能となり、又はその結果に障害が生じないようになつた複製を、その事実を知りながら行う場合
 
   略

 

 

(プログラムの著作物の複製物の所有者による複製等)

第四十七条の二  プログラムの著作物の複製物の所有者は、自ら当該著作物を電子計算機において利用するために必要と認められる限度において、当該著作物の複製又は翻案(これにより創作した二次的著作物の複製を含む。)をすることができる。ただし、当該利用に係る複製物の使用につき、第百十三条第二項の規定が適用される場合は、この限りでない。
 
 2  前項の複製物の所有者が当該複製物(同項の規定により作成された複製物を含む。)のいずれかについて滅失以外の事由により所有権を有しなくなつた後には、その者は、当該著作権者の別段の意思表示がない限り、その他の複製物を保存してはならない。

 

第百十九条  次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。
 
 一  著作者人格権、著作権、出版権、実演家人格権又は著作隣接権を侵害した者(第三十条第一項(第百二条第一項において準用する場合を含む。)に定める私的使用の目的をもつて自ら著作物若しくは実演等の複製を行つた者又は第百十三条第三項の規定により著作者人格権、著作権、実演家人格権若しくは著作隣接権(同条第四項の規定により著作隣接権とみなされる権利を含む。第百二十条の二第三号において同じ。)を侵害する行為とみなされる行為を行つた者を除く。)
 
 二 略

 

第百二十条の二  次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
 
 一  技術的保護手段の回避を行うことを専らその機能とする装置(当該装置の部品一式であつて容易に組み立てることができるものを含む。)若しくは技術的保護手段の回避を行うことを専らその機能とするプログラムの複製物を公衆に譲渡し、若しくは貸与し、公衆への譲渡若しくは貸与の目的をもつて製造し、輸入し、若しくは所持し、若しくは公衆の使用に供し、又は当該プログラムを公衆送信し、若しくは送信可能化した者

 二  業として公衆からの求めに応じて技術的保護手段の回避を行つた者

 三  略

 

不正競争防止法

(定義)
第二条  この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。

 十  営業上用いられている技術的制限手段(他人が特定の者以外の者に影像若しくは音の視聴若しくはプログラムの実行又は影像、音若しくはプログラムの記録をさせないために用いているものを除く。)により制限されている影像若しくは音の視聴若しくはプログラムの実行又は影像、音若しくはプログラムの記録を当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする機能のみを有する装置(当該装置を組み込んだ機器を含む。)若しくは当該機能のみを有するプログラム(当該プログラムが他のプログラムと組み合わされたものを含む。)を記録した記録媒体若しくは記憶した機器を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、若しくは輸入し、又は当該機能のみを有するプログラムを電気通信回線を通じて提供する行為
 
 十一  他人が特定の者以外の者に影像若しくは音の視聴若しくはプログラムの実行又は影像、音若しくはプログラムの記録をさせないために営業上用いている技術的制限手段により制限されている影像若しくは音の視聴若しくはプログラムの実行又は影像、音若しくはプログラムの記録を当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする機能のみを有する装置(当該装置を組み込んだ機器を含む。)若しくは当該機能のみを有するプログラム(当該プログラムが他のプログラムと組み合わされたものを含む。)を記録した記録媒体若しくは記憶した機器を当該特定の者以外の者に譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、若しくは輸入し、又は当該機能のみを有するプログラムを電気通信回線を通じて提供する行為

昔の原稿2002年12月版(作風や画風をマネするのは、どこまでOKなのか?)

2002年12月に書いた雑誌用の原稿です。ご参考までに。

なお、当時の法律等に基づいていますので現在の法律や判例、ガイドライン、解釈と異なる可能性があります。あくまで過去の原稿ということをご了承ください。

> Q1・作風や画風をマネするのは、どこまでOKなのか?

作風や画風は、一般的には著作物には該当しません。著作物とは「思想又は感情を創作的に表現したものであって文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法2条1項1号)です。作風や画風などそれ自体具体的な表現とはいえないものは著作物とはいえません。誰かの作風をまねて元の作品と全く別の絵や文章を作成することは著作権の侵害にはならないのです。しかしながら、次に述べるように、既に存在する文章や絵画があって、その一部を用いたり変形して用いるようなことは著作権を侵害する可能性があります。

1、一部を用いる場合 著作物の一部を用いたりまねたりする場合には複製権(著作権法21条)を侵害する可能性があります。また、著作物そのものをほんの少し変形して丸写ししたりする場合には、元の著作物との間に実質的同一性があれば複製権の侵害となります。

2、変形して用いる場合 元の著作物を脚色したり、変形して、別の著作物を作り出すような場合には、元の著作物の著作権者の翻案権(著作権法27条)を侵害する場合があります。どこまでが複製権の侵害でどこからが翻案権の侵害かの区別はいろいろ考えがあるようですが、元の著作物の変形によって新たな著作物を作りだしたような場合には翻案権、元の著作物と実質的に同じで新たな著作物を作りだしたとはいえない場合には複製権の侵害と考えればよいと思います。元の著作物を変形するような場合には、著作者人格権の一つである同一性保持権(著作権法20条)を侵害する可能性もあります。

3、キャラクター  キャラクターというと漫画やアニメ、ゲームの登場人物などがあげられると思います。これらキャラクターの抽象的なイメージを著作権の保護の対象ととらえられることができるかについては、否定的な見解が多いようですが、具体的に表現された絵柄そのものをマネする場合は次のように著作権を侵害するケースが考えられます。  まず、著作者が表現した登場人物の画面そのままに、それをまねて描いた場合には、著作権者の複製権を侵害することになるでしょう。  元の作品を少し変形させて、元の作品にはない登場人物のポーズや表情などを作りだす場合もあると思います。この場合、元の作品をそのままそっくりマネたわけではありません。しかしながら、元の作品のキャラクターだと誰がみてもわかるような場合には、複製権あるいは翻案権の侵害となる場合があるでしょう。この場合、本人しかわからない場合(一般人が見ても似ているとは思わない)はともかく、一般人がみて元の著作物と実質的同一性があれば複製権あるいは翻案権、同一性保持権を侵害することになるのです。  漫画サザエさんの登場人物サザエさん、カツオ、ワカメをバスの車体に描いていた運送会社が訴えられた事例で東京地裁は、漫画サザエさんの一コマ一コマに同じ表情や姿勢があるかないかを対比するまでもなく著作権を侵害するとしています。 またゲームソフト「ときめきメモリアル」の登場人物の図柄をまねて製作・販売されたアニメーションビデオ「どぎまぎイマジネーション」が問題になった事件で東京地裁は次のように述べています。「本件ビデオに登場する女子高校生の図柄は、本件藤崎の図柄を対比すると、その容貌、髪型、制服等において、その特徴は共通しているので、本件藤崎の図柄と実質的に同一のものであり、本件藤崎の図柄を複製ないし翻案したものと認められる。」「本件ビデオにおいては、藤崎詩織の名前が用いられていないが(中略)本件ビデオの購入者は、右ビデオにおける女子高校生を藤崎詩織であると認識するものと解するのが相当である。」「被告は、本件ビデオにおいて、本件藤崎の図柄を、性行為を行う姿に改変しているというべきであり、原告の有する、本件藤崎の図柄に係る同一性保持権を侵害している。」「なお、被告は、同人文化の一環としての創作活動であり、著作権法違反は成立しないと主張するが、採用の限りでない」。 この事例のように、ゲームなどのキャラクターの図柄をマネたイラストなどはホームページ上でも同人誌でも見かけることは多いと思います。 元の図柄そのものでないとしてもその特徴を再現し、第三者がみて容易に同一性を感じるようなものであれば、この判例のように著作権(複製権・翻案権)や著作者人格権(同一性保持権)を侵害すると認定される場合がありますので注意が必要です。

4、パロディ  パロディはジャンルとしては確立していますし、その文化的価値も認められているといえるでしょう。しかし、パロディの元になった作品の著作者からみれば、著作者の許可を得ずに勝手にパロディにされた場合には、著作者の作品に対する思い入れなどから「意に添わない変更をしないで欲しい」「勝手に使われて欲しくない」という気持ちもあるでしょうし、「自分の財産である作品をライセンス料のような金銭の支払いなしに勝手に使われて財産的損害を被った」と考えるかもしれません。 パロディについては、フランスのように比較的自由に認める法律を持つ国もありますが、我が国では特にパロディを保護する法律はありませんので、著作権法からみれば著作者の著作者人格権の一つである同一性保持権・氏名表示権(著作権法19条)の侵害、著作権者の複製権・翻案権の侵害と構成することもできるでしょう。  判例をみてみますと、いわゆるパロディ事件で最高裁は、被告側の「引用」(著作権法32条)の主張を認めず、同一性保持権の侵害を認定しました。

5、販売について  元の著作物の著作者、著作権者の複製権、翻案権、同一性保持権を侵害するような場合には、販売することはできません。仮に販売した場合には、著作権者は差止めを請求したり、損害賠償を請求することができます。

> Q2・作者の死後50年を経過した作品(コンテンツ)は、 > 自由に使っても問題ないのか? > パロディにしてもOKなのか等

著作権は所有権とは異なり保護期間があります。著作者には著作物を創作した時点で著作権と著作者人格権が発生し(著作権法51条1項)、独占的な権利が付与されますが、その権利の存続期間が無制限であれば、新たな文化の発展を逆に阻害してしまうおそれがあります。そこで、著作物には著作権を認めるとともに保護期間を設け、保護期間経過後は文化遺産として広く開放されることになっています。

保護期間については著作権法51条以下に規定があります。これをまとめると次のようになります。 1、著作者の死後50年(著作権法51条2項) (著作権法57条により、死亡した年の翌年の1月1日から50年と計算します) 2、共同著作物の場合、最後に死亡した共同著作者の死後50年(著作権法51条2項) 3、無名又は変名の著作物の著作権は、公表後50年(著作権法52条1項) 4、団体名義の著作物は公表後50年(著作権法53条1項) 5、映画の著作物の著作権は公表後50年、ただし創作後50年以内に公表されなかったときは創作後50年(著作権法54条1項) 6、継続的刊行物(新聞、雑誌、各回でストーリーが完結するドラマ)などは各回の公表時、逐次刊行物(ストーリーが連続しているドラマなど)は最終回の公表時から50年(著作権法56条1項)   なお、戦時中に連合国(アメリカ合衆国、イギリスなど)の著作権の保護が日本国内では十分に行われていなかったとの理由から、連合国および連合国民が有する著作権については通常の保護期間に加えて特定の日数が加算されます。これを戦時加算といいます(連合国及び連合国民の著作権の特例に関する法律4条)。例えばアメリカ合衆国民の有する著作権の保護期間は死後50年にさらに3794日が加算されます。 ご質問のような場合には、本当に著作権の保護期間が経過しているのかを確認する必要があります。 また、著作者が死亡した場合でも著作者人格権の保護は一定の範囲で認められています(著作権法60条)。著作者がもし生きていれば著作者人格権(公表権、氏名表示権、同一性保持権)の侵害とみなされるような行為は、著作者が死亡し、さらに著作権の保護期間が経過した場合でも禁止されています。 したがって、著作権の保護期間が経過したからといってパロディなどに自由に使用してよい、というわけではありませんので注意が必要です。  

> Q3・実際に自分の作品をマネされたなど > 著作権を侵害された場合は、具体的にどうすればいいのか?

著作権あるいは著作者人格権を侵害された場合、民事上の救済措置として①差止請求、②名誉回復等の措置、③不法行為に基づく損害賠償請求④不当利得返還請求、刑事上の措置として⑤著作権法違反に基づく刑事罰があります。 ① 著作者、著作権者は、侵害者に対して侵害行為の停止を請求することができ、侵害行為に使用された物、侵害行為によって作成された物等の廃棄なども請求することができます(著作権法112条)。 ② 著作者は、故意又は過失により著作者人格権を侵害した者に対し、著作者であることを確保する措置、又は著作者の名誉・声望を回復するための措置(新聞に謝罪広告を載せたり、訂正措置を講じさせたりすること等)を請求することができます(著作権法115条)。 ③ 著作者あるいは著作権者は、故意または過失により著作権あるいは著作者人格権を侵害した者に対しては、著作者あるいは著作権者がこれによって生じた損害の賠償を請求することができます(民法709条)。 ④ 著作権者が権利侵害行為により損害を受けたときは、その行為により利益を受けた侵害者に対し、利益の返還を請求することができます(民法703条)。 ⑤ 著作権あるいは著作者人格権の侵害については罰則がありますが(著作権法119条、120条など)、これらは親告罪といって著作者あるいは著作権者の告訴なければ起訴することはできません(著作権法123条)。 著作権侵害行為を発見したら、まず、内容証明郵便で著作権侵害行為をやめるように警告を発し、相手方の対応が悪ければ、裁判所に訴えを提起したり、警察や検察に対して告訴をすることです。いずれにしても、まずは、弁護士に相談されることをお勧めします。  

過去の事例 パロディ事件 写真家Xが撮影したカラー写真(スキーヤーらが雪山の斜面を波状のシユプールを描きつつ滑降している場景)をグラフィックデザイナーYが白黒の写真に複製したうえ、その右上に自動車のスノータイヤの写真を合成し、無断で写真集や雑誌に掲載して問題となった事件。第1審ではX勝訴、高裁では一転してX敗訴。最高裁では高裁判決を破棄し、Xに対する著作権侵害を認めた事件。最終的に東京高裁で和解により終結した。

著作権法 (同一性保持権) 第二十条  著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする。  (略) (複製権) 第二十一条  著作者は、その著作物を複製する権利を専有する。 (翻訳権、翻案権等) 第二十七条  著作者は、その著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利を専有する。 (保護期間の原則) 第五十一条  著作権の存続期間は、著作物の創作の時に始まる。  2  著作権は、この節に別段の定めがある場合を除き、著作者の死後(共同著作物にあつては、最終に死亡した著作者の死後。次条第一項において同じ。)五十年を経過するまでの間、存続する。 (保護期間の計算方法) 第五十七条  第五十一条第二項、第五十二条第一項、第五十三条第一項又は第五十四条第一項の場合において、著作者の死後五十年又は著作物の公表後五十年若しくは創作後五十年の期間の終期を計算するときは、著作者が死亡した日又は著作物が公表され若しくは創作された日のそれぞれ属する年の翌年から起算する。 (著作者が存しなくなつた後における人格的利益の保護) 第六十条  著作物を公衆に提供し、又は提示する者は、その著作物の著作者が存しなくなつた後においても、著作者が存しているとしたならばその著作者人格権の侵害となるべき行為をしてはならない。ただし、その行為の性質及び程度、社会的事情の変動その他によりその行為が当該著作者の意を害しないと認められる場合は、この限りでない。

2015年6月18日 (木)

昔の原稿2002年11月版(ホームページの流用)

昔の原稿2002年11月版

2002年11月に書いた雑誌用の原稿です。ご参考までに。

なお、当時の法律等に基づいていますので現在の法律や判例、ガイドライン、解釈と異なる可能性があります。あくまで過去の原稿ということをご了承ください。

Q1

 

ウェブページは写真や文章やリンクなど、さまざまな情報で構成されています。これらの一つ一つが著作物となりうる要素を持っていますし、これらの情報の集合体つまりコンピューターのディスプレイに表示される画面そのものが著作物となる場合もあります。

著作権法は、「著作物」を保護しています。「著作物」とは「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」と定義されています(著作権法2条1項1号)。これを分解してみると、①思想又は感情を②創作的に③表現したもの、であって、④文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの、でなければ著作物とはいえないということです。

 ①の「思想又は感情」についてですが、高度なものである必要はありません。哲学的な思想とか文学的な感情である必要は一切ないのです。ちょっとした考えなどでもこの法律の「思想又は感情」に該当します。ただし単純なデータなどはこれにはあたりません。

②の「創作的」とは何らかの独創性があることです。絵を正確に模写した場合などは独創性がないので創作的とはいえません。

③の「表現したもの」とはアイデアにとどまらず何らかの形で具体的に表現することが必要になるということです。著作権法はあくまでも著作者の頭の中にある思想や感情やアイデアそれ自体を保護しているのではなく、著作者の頭の中から外部にあらわれた「表現」それ自体を保護しているのです。

④の「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属する」ですが、これをみると狭い範囲しか保護していないように感じられますが、実際は一般的に知的、文化的精神活動の所産全般であればよいとされています。

 さて、ウェブページが著作物にあたるのかどうかですが、よほど単純で誰でも思いつくウェブページを除けば、これを作成した者の思想又は感情が創作的に表現された知的精神活動の所産といえますので著作物といえるでしょう。この場合、ウェブページの画面そのものが美術の著作物(著作権法10条1項4号)となります。もちろんウェブページを構成する写真や文章なども著作物に該当する場合もありますし、リンク集のようなものでも創作性が認められるような場合には著作物といえます。単なるデータの集合体であっても素材の選択や配列に創作性があれば編集著作物(著作権法12条1項)として、あるいはコンピューターで検索できるような情報の集合体で情報の選択又は体系的な構成によって創作性があるものであればデータベースの著作物(著作権法12条の2第1項)として保護されているのです。

 またアイコンでよほど創作性が認められるものは美術の著作物にあたる場合もありますし、商標登録されているデザインにも注意が必要です。

 文章や絵画の場合と違って、限られたタグを用いて作成するウェブページのデザインはある程度似通ってもやむを得ない面もあります。だからといって、そっくりそのまま流用することも一部を流用することもリスクを伴う行為といえます。

 

ソースコードの流用について

 ウェブページのソースコードはそれ自体一種のプログラムですから、著作権法上プログラムの著作物(著作権法10条1項9号)として保護されます。プログラムについては、「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属する」かどうか議論がありましたが、昭和60年の著作権法改正で著作物に含めることが明確になりました。著作権法上プログラムとは「電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したものをいう。」(著作権法2条1項10号の2)とされています。

もっともプログラムの著作物として保護されるのはあくまでも創作性が認められるものに限られます。タグ自体は著作物ではありませんし、あまりに単純なソースコードは創作性が認められず、プログラムの著作物としては保護されないことになります。

他人のソースコードをまねてウェブページを作成することはよくあることですし、限られたタグの組み合わせであるソースコードに常に創作性があるとはいいがたいように思われます。ただ、誰もが思いつくような組み合わせはともかくとして、誰がみても創作性があるソースコードが存在して、それをそのままコピーして使うようなことは、プログラムの著作物の複製権を侵害することになるでしょう。

 

Q2

 

ウェブページのコンテンツであるテキストといっても天気予報のようなものからニュース、データ、小説、論文いろいろなものが考えられます。テキストは全てが著作権の対象になるわけではありません。最初に述べたように著作物して保護されるためには創作性が必要になります。「晴れのちくもり」とか「○○社新製品発表」とか単なるデータの羅列とか事実の伝達にすぎない雑報、死亡記事のような時事の報道などについては思想・感情の要素がなく創作性がないので著作物には該当しません。このような「著作物ではないテキスト」については著作権が発生していないのですから引用することは問題ありません。

すこしでも創作性が認められるものであれば著作物に該当します。この場合テキストは「言語の著作物」(著作権法10条1項1号)に該当します。著作物として認められるテキストを複製することは著作権者の複製権(著作権法21条)の侵害となります。そのままそっくり複製することも一部を抜き出して複製することも複製権の侵害となるのです。

ただし一部を複製する場合で、著作権法上「引用」に該当する場合には複製権を侵害することにはなりません(著作権法32条1項)。著作権法32条1項は、「公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。」と定めています。

ウェブページに掲載されているテキストは既に公表されているものですから、この条文の「公表された著作物」に該当することになるでしょう。

「公正な慣行に合致する」というのは、社会通念上「引用」が妥当であると認められる場合のことをいいます。具体的には他人の意見に対して批評を行う場合などが考えられます。他人の意見を引っ張ってこなければ批評を十分に行えませんから。文章の流れからいって必然的に引用せざるを得ないものであれば公正な慣行に合致することになるでしょう。

「引用の目的上正当な範囲」に該当する場合とは具体的にどのようなことをいうのでしょうか。

第一に、引用する側の著作物と引用された著作物とが明瞭に区別できることが必要になります。引用されたテキストを「  」(カギ括弧)で表示する、フォントの種類や大きさを変える、などして、自分の書いたテキストと明確に区別できるようにしておくことです。

第二に、引用する側の著作物と引用された著作物に主従関係があることが必要です。自分が書いたテキストより引用したテキストの方が分量が多いような場合には、「引用の目的上正当な範囲」とはいえません。また引用するテキストは必要最小限度の分量にする必要があるでしょう。

第三に、著作者人格権を侵害するような態様で引用しないことが必要です。

第四に、引用したテキストの出所を明示することが必要です(著作権法48条1項、2項)。タイトルや著作者名の表示をきちんとしていなければ、著作権法上適法な「引用」とはいえません。

以上のような要件をみたさない引用は適法ではありません。著作権者の複製権を侵害しますので損害賠償や差止請求の対象となります。

 

Q3

リンクを張っても単にリンク先のURLの情報を示しているだけです。URLは単なる住所みたいなものですから、著作権の対象にはなりません。自分のウェブページにリンク先のウェブページの情報の全部又は一部を複製しているわけではないのです。したがって、リンクを張ること自体はリンク先の著作者の複製権を侵害するとはいえません。

無断リンク禁止の意思を示しているウェブページもありますが、パスワードで保護されているわけでもなく公開されているウェブページである以上、リンクを張られない自由というのは認めがたいように思われます。無断リンク禁止の意思を表示している作者の意思をどれだけ尊重するかはリンクを張る人の考え方次第だと思います。

著作権法上問題となるとすればフレームリンクのケースが考えられます。フレームリンクの場合、画面上はリンク元である自分のウェブページの一部としてリンク先のウェブページが表示されることになりますので、リンク先のウェブページの作者の意図とは違った表示がなされることになります。この場合、リンク先の作者の同一性保持権(著作権法20条)を侵害する場合も考えられます。

トップページへのリンクは認めるが下の階層のページにリンクを張ることを禁止しているウェブページも見受けられます。このようなディープリンクが法律的に禁止されているとは一概には考えにくいのですが、広告収入を得ているリンク先のトップページを経由しないためにリンク先の広告媒体としての価値が低下し経済的損失を与えることを理由として、ディープリンクを違法とする海外の判例もありますので注意は必要です。

画像ファイルなどに直接リンクを張ることも形式的にはそのファイルの場所を示しているだけなのですが、リンク先のページ全体の同一性保持権やリンク先の氏名表示権を侵害するとの見解もあるようです。当該画像の権利者に配慮する必要はあるでしょう。

また、著作権の問題ではありませんが、リンク先の名誉を傷つけたり侮辱するような紹介文とともにリンクを張るような場合には名誉毀損となる可能性があります。

 

 

過去の事例

 1997年のアメリカの事例ですが、他社のニュースをフレーム内にリンクしていたトータルニュース社に対してワシントンポストなど6社が訴訟を提起しました。このケースではトータルニュース社がフレームを停止することで和解が成立しています。

 トータルニュース社に対しては朝日新聞社、毎日新聞社、日本経済新聞社、産業経済新聞社、読売新聞社の5社も警告文書を送付し、トータルニュース社がフレームを停止するに至っています。

 

 

著作権法

(複製権)
第二十一条  著作者は、その著作物を複製する権利を専有する。

 

(引用)
第三十二条  公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。

 

(出所の明示)
第四十八条  次の各号に掲げる場合には、当該各号に規定する著作物の出所を、その複製又は利用の態様に応じ合理的と認められる方法及び程度により、明示しなければならない。
 
 一  第三十二条、第三十三条第一項(同条第四項において準用する場合を含む。)、第三十七条第一項若しくは第三項、第四十二条又は第四十七条の規定により著作物を複製する場合
 
 二  略

 三  第三十二条の規定により著作物を複製以外の方法により利用する場合又は第三十五条、第三十六条第一項、第三十八条第一項、第四十一条若しくは第四十六条の規定により著作物を利用する場合において、その出所を明示する慣行があるとき。
 
 2  前項の出所の明示に当たつては、これに伴い著作者名が明らかになる場合及び当該著作物が無名のものである場合を除き、当該著作物につき表示されている著作者名を示さなければならない。
 
 3  略

2015年6月16日 (火)

昔の原稿2002年10月版(ファイル交換)

2002年10月に書いた雑誌用の原稿です。ご参考までに。

なお、当時の法律等に基づいていますので現在の法律や判例、ガイドライン、解釈と異なる可能性があります。あくまで過去の原稿ということをご了承ください。

Q1

WinMXなどのピアツーピアソフト(ファイル交換ソフト)を利用したファイル交換は近年盛んに行われています。利用者にとっては大変便利なソフトですが、ピアツーピアソフトを利用して音楽、映像等のファイルをダウンロードすることは、相手方のコンピューター上のファイルを自分のコンピューターに「複製」することになります。ホームページ上でダウンロードできる状態になっている音楽、映像等のファイルをダウンロードすることも「複製」に該当します。著作物を複製する権利はもともと著作権者だけが持つ権利です(著作権法21条)。したがって著作権者自身あるいは著作権者から許諾を得た場合でなければ複製することができないのが原則です。

音楽の場合であれば作曲家・作詞家(作曲家・作詞家から音楽出版社に著作権が譲渡され、さらにJASRACなどの著作権等管理事業者に信託譲渡されている場合がほとんどです)およびレコード製作者に、テレビ番組であれば制作会社やテレビ局に、映画の場合であれば映画製作会社に複製権がありますので、許諾を得ないで複製行為を行うことは違法になります(著作権法21条、29条1項、96条、98条、100条の2)。また実演家の著作隣接権(録音権)を侵害する場合もあります(著作権法91条)。

ただし、ご質問のようなダウンロード行為は個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的とする限り、私的使用のための複製に該当しますので、違法ではありません(著作権法30条1項)。なお、プロテクトをはずすなど技術的保護手段の回避等によって行われる場合には私的使用目的の複製には該当しませんので違法となります(著作権法30条第1項2号)。また、ダウンロード時に、ダウンロードしたファイルをピアツーピアソフトを使って公開しようと考えているのであれば、私的使用の目的の複製には該当しないことになりますのでダウンロード自体が違法な複製ということになります。さらに、私的使用の目的で複製したファイルを他の目的に使用することがあれば、その段階で違法な複製があったものとみなされます(著作権法49条)。私的使用目的のダウンロードだからといって無制限に許されるわけではなく、「著作物の通常の利用を妨げず、かつ、著作者の正当な利益を不当に害しないこと」が求められています。テレビ番組をビデオに録画して家庭にビデオライブラリーを作る行為ですら著作者の正当な利益を不当に害するのではないか、という考えもあるくらいです。

「ピアツーピアソフトを利用すれば匿名性を確保しつつ簡単にファイルをダウンロードできる」と考えて限度を超えてダウンロードすることは、著作者の正当な利益を不当に害する場合もあるでしょう。だからといってピアツーピアソフト自体が悪であるという考えも極端な気もします。ピアツーピアソフトの使用自体は何ら違法ではありませんので、どのように使っていくのかということが違法か合法かの分かれ道ということになります。

 

Q2

通常のテレビ番組は放送以前に録画・編集され、「映画の著作物」に該当します。映画の著作物については「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されている著作物を含むものとする」(著作権法2条3項)とされていますので、劇場用のいわゆる「映画」でなくとも、放送以前に録画・編集されビデオテープに固定されているテレビドラマ、バラエティなどは「映画の著作物」に該当することになるわけです。また生放送の番組についてもこれを受信して録画することは私的使用の目的でない限り、放送事業者の複製権(著作権法98条)を侵害することになります。放送事業者は、自分で番組を作っていない場合、つまり著作権者ではない場合でも著作隣接権者として保護されているのです。

最近は市販のパソコンにもテレビチューナーやDVD-RWなどの大容量メディアが搭載されるようになり、特に知識がなくても簡単にテレビ番組をキャプチャーできるようになってきました。またMPEG2やMPEG4などの圧縮を行うことでファイルサイズが小さいにもかかわらず高い画質で保存できるため、テレビ番組をパソコンで保存するユーザーも多いようです。ご質問の場合、テレビ番組をそのままキャプチャーしたのかビデオテープに録画したうえでデジタル化したのかわかりませんが、どちらにしてもデジタル化することは著作物の複製にあたりますので私的使用目的でない限り著作権者や著作隣接権者などの権利者の複製権を侵害します。もしデジタル化した段階でファイル共有を目的としていたのであれば、ファイル共有目的の複製は私的使用目的の複製にはあたりませんので、デジタル化したこと自体が権利者の複製権を侵害することになるでしょう。ファイル共有の目的がなく、自分で楽しむためにデジタル化した場合であれば、私的使用目的の複製として合法になります。ただし、私的使用目的でデジタル化した番組を他人に配布できる状態にした場合には、違法な複製があったものとみなされます。

テレビ番組については、番組を製作したテレビ局や制作会社に複製権、公衆送信権(著作権法23条)が、出演者などの実演家には送信可能化権(著作権法92条の2)があります。

公衆送信とは「公衆によって直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信を行うこと」をいいます(著作権法2条1項7号の2)。公衆送信という概念は、放送することも、電話で申し込みを受けてファックスを送信することも、ホームページにアクセスしてきた人にデータを送信することも含む広い概念です。

このうち「公衆からの求めに応じ自動的に行うもの」を自動公衆送信といいます(著作権法2条1項9号の4)。サーバにおかれたホームページのデータがアクセスに応じて自動的に送信される場合や、ピアツーピアソフトの共有フォルダにおかれたファイルが相手方の求めに応じて自動的に送信される場合などがこれに該当します。

自動公衆送信できる状態にすることを送信可能化といいます(著作権法2条1項9号の5)。情報の発信者がデータをウェブサーバにアップロードしたり、ピアツーピアソフトの共有フォルダにデータをいれることがこれに該当します。実際にファイルを送信した場合には権利者の公衆送信権を侵害することは当然ですが、実際にファイルを送信しなくても、ピアツーピアソフトの共有フォルダにファイルを保存しいつでもファイル交換可能な状態を作り出すだけで権利者の送信可能化権を侵害することになるので注意が必要です。

以上のとおり、ピアツーピアソフトの共有フォルダやホームページ上に映像や音楽のファイルなどをおいてダウンロードできる状態におくことは、権利者の複製権や公衆送信権、送信可能化権を侵害することになります。複製権や公衆送信権、送信可能化権を侵害した場合、3年以下の懲役又は300万円以下の罰金という刑事罰がありますし、民事上も損害賠償請求を受ける可能性があります。

 

Q3

違法なファイル交換については権利者も捜査機関も監視を強めています。キャプチャーした映像の場合ではありませんが、2001年11月にはWinMXを使用してビジネスソフトを交換していた(公衆送信権侵害)、あるいは交換可能にしていた(送信可能化権侵害)として2名の学生が逮捕されました。テレビ番組のキャプチャーを交換して逮捕された例は聞きませんが、人気のあるテレビ番組は、今までもビデオ化、DVD化され、権利者にとっては今後も引き続き利益を得ることができる重要な財産です。また、ブロードバンド時代を迎えた現在では、権利関係の調整さえできればインターネット上でテレビ番組を流して利益をあげたいと考えているはずです。テレビ番組がキャプチャーされ、インターネット上で頻繁に交換されるようなことになると、権利者も黙っていないと思われます。

もし、権利者がテレビ番組のファイル交換の事実を認識して調査したうえ、プロバイダを特定できれば、権利者としては積極的に警察に捜査を求めることになるでしょう。警察は令状をもってプロバイダから資料の提出を求めることができるのですから。

刑事の場合だけでなく民事の分野でも権利者が著作権侵害を行う者に対して損害賠償請求をすることも十分考えられます。今までプロバイダは、令状がない場合には「通信の秘密」を盾にして契約者の個人情報を開示することはありませんでしたが、平成14年5月27日に施行されたプロバイダ責任制限法により一定の場合にはプロバイダは利用者の情報を権利者(被害者)に開示しても免責されることになっています。

もっともプロバイダ責任制限法の適用があるか否かはまだ事例が少ないため微妙です。というのは、プロバイダ責任制限法は、不特定者によって受信されることを目的とする電気通信の送信(特定電気通信といいます)を対象としていますが、「ピアツーピアソフトの場合、特定の者に送信しているのであって、特定電気通信ではないのではないか。」という問題があるからです。ただ、実質的に考えてみると、ファイルを送信する者は、名前も知らない相手にファイルを送信している場合が多いわけですから特定電気通信であるといえなくもありません。ホームページ上に許諾を得ていない映像ファイルをダウンロード可能な状態にしているのと実質的に同じです。したがって、プロバイダ責任制限法の適用の可能性もありうると考えておいた方がよいでしょう。プロバイダ責任制限法ではプロバイダ等に対して著作権など他人の権利を侵害する情報を発信している者の氏名、住所を開示請求する権利を定めています。あまりたくさんのファイルを送信しているとIPアドレスが特定され、契約しているプロバイダに開示請求されているかもしれません。

 

 

 

 

過去の事例

① 2002年4月、ファイルローグという名称で運営されていたファイル交換サービスについて、著作権者の自動公衆送信権、送信可能化権、著作隣接権者の送信可能化権侵害を理由に利用者へのファイル情報の送信の差止めが命じられました。

② 2001年11月、WinMXをインストールしたパソコンを利用して「Adobe Photoshop 6.0日本語版」などを他のユーザーがダウンロードできる状態にしていた学生2名が逮捕されました。ファイル交換ソフトを利用した著作権侵害による世界初の刑事摘発であるといわれています。

 

 

著作権法

(定義)

第二条  この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
 
 一  著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。
 
 二  著作者 著作物を創作する者をいう。
 
 四  実演家 俳優、舞踊家、演奏家、歌手その他実演を行なう者及び実演を指揮し、又は演出する者をいう。
 
 七の二  公衆送信 公衆によつて直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信(有線電気通信設備で、その一の部分の設置の場所が他の部分の設置の場所と同一の構内(その構内が二以上の者の占有に属している場合には、同一の者の占有に属する区域内)にあるものによる送信(プログラムの著作物の送信を除く。)を除く。)を行うことをいう。
 
  九の四  自動公衆送信 公衆送信のうち、公衆からの求めに応じ自動的に行うもの(放送又は有線放送に該当するものを除く。)をいう。
 
 九の五  送信可能化 次のいずれかに掲げる行為により自動公衆送信し得るようにすることをいう。
 
  イ 公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置(公衆の用に供する電気通信回線に接続することにより、その記録媒体のうち自動公衆送信の用に供する部分(以下この号において「公衆送信用記録媒体」という。)に記録され、又は当該装置に入力される情報を自動公衆送信する機能を有する装置をいう。以下同じ。)の公衆送信用記録媒体に情報を記録し、情報が記録された記録媒体を当該自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体として加え、若しくは情報が記録された記録媒体を当該自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体に変換し、又は当該自動公衆送信装置に情報を入力すること。
 
  ロ その公衆送信用記録媒体に情報が記録され、又は当該自動公衆送信装置に情報が入力されている自動公衆送信装置について、公衆の用に供されている電気通信回線への接続(配線、自動公衆送信装置の始動、送受信用プログラムの起動その他の一連の行為により行われる場合には、当該一連の行為のうち最後のものをいう。)を行うこと。

 

(複製権)
第二十一条  著作者は、その著作物を複製する権利を専有する。

 

(私的使用のための複製)
第三十条  著作権の目的となつている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。
 
 一  略
 
 二  技術的保護手段の回避(技術的保護手段に用いられている信号の除去又は改変(記録又は送信の方式の変換に伴う技術的な制約による除去又は改変を除く。)を行うことにより、当該技術的保護手段によつて防止される行為を可能とし、又は当該技術的保護手段によつて抑止される行為の結果に障害を生じないようにすることをいう。第百二十条の二第一号及び第二号において同じ。)により可能となり、又はその結果に障害が生じないようになつた複製を、その事実を知りながら行う場合

 

 

(罰則)

第百十九条  次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。

 一  著作者人格権、著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者(第三十条第一項(第百二条第一項において準用する場合を含む。)に定める私的使用の目的をもつて自ら著作物若しくは実演等の複製を行つた者又は第百十三条第三項の規定により著作者人格権、著作権若しくは著作隣接権(同条第四項の規定により著作隣接権とみなされる権利を含む。第百二十条の二第三号において同じ。)を侵害する行為とみなされる行為を行つた者を除く。)

 

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