昔の原稿2006年2月版(楽天ポイント騒動)
2006年2月に書いた雑誌用の原稿です。ご参考までに。
なお、当時の法律等に基づいていますので現在の法律や判例、ガイドライン、解釈と異なる可能性があります。
あくまで「過去の原稿」ということをご了承ください
> ●楽天ポイント騒動
> ・1アカウント300~500円分のポイントが付与される楽天のキャンペーンで、
> アカウントを複数所得してポイントを大量取得する行為は、法的に問題が
> ないのか?(数アカウント程度ならよくても、1万アカウントならダメというよう
> なケースもあるのか)
今回問題となったキャンペーンは、1アカウントについて300~500円分のポイントが付与されるというキャンペーンですが、もともと楽天会員のアカウントは1人につき1アカウントではなく、1つのメールアドレスにつき1アカウントというもののようです。したがって、複数のメールアドレスを保有している人物が複数の楽天会員のアカウントを保有することは理屈としては予想されていたでしょうし、その人物がポイントを複数回取得することもある程度は予測していたものと考えられます。
しかしながら、1人の人物が数十、数百、数千のメールアドレスを保有し、さらにその数に応じた楽天のアカウントを保有することまでは、理屈としてはありえるとしても、実際に行う人がいるとは予想しなかったのでしょう。
実際にポイントを大量取得した人について何か法的に問題となるのか検討してみましょう。まず、楽天側は複数アカウントの取得そのものを禁止しているわけではありません。また、今回のキャンペーンについて1人につき1回だけ参加できるとしていたわけではないようです。これだけを考えると、1人で1万アカウント取得して、キャンペーンに参加し、ポイントを大量取得することは問題がないようにも思えます。しかしながら物事には限度というものがあります。仮に規約の理屈上は問題ないということでも、権利を行使される楽天側からすれば、そのような大量取得者については、大量取得行為自体が規約の別の条項に反している(規約の一般条項の部分ではポイント提供者側が一方的にポイントを無効にできるような部分が用意されていることが多いと考えられます)など、何らかの形で大量取得者の権利行使を防ぐ手段が用意されている可能性があります。また、ユーザーの権利行使が信義則(民法1条2項)に反するとか、権利濫用(民法1条3項)であるとの主張が可能かもしれません。
> ・楽天側は複数アカウントの取得を禁じる規約を用意していなかったにも
> かかわらず、ポイント返還やポイント利用分の買い物を現金で払うよう請求
> したのは、法的に問題がないのか?
キャンペーンはもともとサービスの利用拡大を狙っていると思われます。ですから、利用拡大につながるようなポイントの取得は何ら問題はないはずです。ですが、そもそも過剰にポイントを発行し、結果的に事業運営自体ができなくなるようなことは、さすがに合理的な限度を超えたキャンペーンといえます。
楽天側の不備につけ込んで過大にポイントを取得し、そのポイントを利用した場合には、キャンペーンの「ただ乗り」には違いありません(もともと「ただ」ですが)。いくら規約上は複数アカウントの取得を禁止していなかったとしても、何百、何千とアカウントを取得してポイントを取得したような場合には、さすがにポイント取得に合理性があるようには思われません。もしも、楽天側に有利に解釈すれば、過大なポイントを取得し実際に利用することは権利の濫用であって、無効なポイントの利用形態であり、実際に商品を購入した場合には、その対価を返還せよ、ということになるのでしょう。ですが、実際に利用したポイントについて現金で支払を求めたりするのは、ユーザー側の立場からすれば、どうかという印象もあります。楽天自身が当初から過大なポイント取得について何ら制限を設けていなかったからです。バランスをとるとすれば、民法703条(不当利得返還義務)は「法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。」と定めていますので、利益が残っている限度で返還するという形が結論としてはよいと思われます。例えば、ユーザーによる何百、何千といった明らかに過大なアカウント取得とポイント取得があり、そのポイントを利用して買い物をした場合には、実際に品物がユーザーの手元に残っている範囲で返還するということです。
> ・そもそも、サービスポイントは法的にどのように扱われるか?
ポイントは、商品又は役務(サービス)を通常の価格よりも安く購入できる利益です。今回問題となっている楽天ポイントだけでなく航空会社のマイレージなどもこれに該当します。ポイントに応じて割引を受けられる制度は、ポイントが景品類にあたるか否かで法的な扱いが異なると考えられます。もしも景品類に該当すると考えると景品表示法の規制があります。景品表示法の規制がある場合には、例えば、顧客にもれなく景品をつける場合には取引額の10%以内の景品でなければならなくなります。顧客との取引が1万円であるとすれば、その顧客に提供できる景品は1000円以内でなければならないということです。
では、ポイントは景品といえるでしょうか。この点、値引きをすることやキャッシュバックは景品としては扱われておらず、正常な商慣習に照らして適当な範囲であれば、特に値引き額について規制はありません。結論としては、マイレージを代表とするポイントは景品として扱われておらず、適当な範囲であれば特に規制はありません。
今回のポイントがもしも「景品類」であったならば、楽天が同一人物にポイントを大量に取得させてしまうことは景品表示法の趣旨に反するということになりますが、ポイントは「景品類」ではないので、この点では問題がないということになります。
民法
(基本原則)
第一条 私権は、公共の福祉に適合しなければならない。
2 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
3 権利の濫用は、これを許さない。
(不当利得の返還義務)
第七百三条 法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。
景品表示法
(景品類の制限及び禁止)
第三条 公正取引委員会は、不当な顧客の誘引を防止するため必要があると認めるときは、景品類の価額の最高額若しくは総額、種類若しくは提供の方法その他景品類の提供に関する事項を制限し、又は景品類の提供を禁止することができる。
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