昔の原稿2006年11月版(ライブカメラ、肖像権、プライバシー)
2006年11月に書いた雑誌用の原稿です。ご参考までに。
なお、当時の法律等に基づいていますので現在の法律や判例、ガイドライン、解釈と異なる可能性があります。
あくまで「過去の原稿」ということをご了承ください
・幼稚園や保育園、あるいは職場やホテルなどのライブカメラ映像を誰でも見られるようにしておくのは問題ない行為なのか?
幼稚園や保育園の場合「子供が園内でどんな様子でいるのか見たい」という親の希望によって、親などの限られた範囲に対してだけ園内の様子をライブカメラで配信したりすることもあるようです。また、職場やホテルなどの場合にも、犯罪の防止、あるいは犯罪や事故が起こった場合の事後の対処などのために防犯カメラを設置し、録画することもあるようです。さらに、銀行やクレジットカードのATMにも不正利用の防止、不正利用があった場合の事後的な対処のためにカメラが設置され写真が撮影されているそうです。
防犯カメラやライブカメラの設置によって個人の肖像権やプライバシー権(憲法13条)が侵害されるおそれは十分に考えられます(杉並区のように防犯カメラの設置、利用について条例を設けている自治体もあります)。防犯カメラやライブカメラによる撮影が違法かどうかは、撮影の場所、目的や必要性、方法が相当であるかなどを検討して判断されると考えられます。撮影の目的として、犯罪への対処、顧客に対する情報提供、などが考えられます。方法としても、カメラがあることの掲示の有無、目に触れる状態でのカメラの設置、隠し撮り、固定カメラ、特定の人物を追跡して撮影(チェイシング)、ズームなど様々な方法が考えられます。
裁判で問題になった事例としてはコンビニエンスストアが防犯カメラで店内を撮影・録画し一定期間保管していたことが問題になったものがあります。この裁判では、犯罪や事故に対処する目的には相当性や必要性があり、カメラも客の目に触れる状態で設置され、ビデオテープが定期的に消去されていることなどの事情から、方法についても相当性があり、違法ではないと判断されています。違法と判断された裁判例としては、夫が契約しているクレジットカード会社が妻に対して現金自動貸付機が撮影した写真(夫の写真だけでなく夫と一緒にいた女性の写真)を(第三者利用の疑いがあり確認のため)送付したところ、一緒にいた女性がカード会社に損害賠償を請求し、裁判所がこれを認めたというものがあります。不正利用の確認という目的からすれば、夫本人だけが写っている写真を妻に送れば十分に確認でき、女性の写真まで送ることは違法であるということです。このように、実際の裁判では、撮影の場所、撮影の目的や方法、撮影後の処理などを総合的に考慮して違法か合法かが判断されることになります。
ご質問のケースの場合、幼稚園や保育園であれば両親や祖父母などに限定せずライブカメラの映像を公開することは違法となる可能性があります(民法709条の不法行為責任だけでなく個人情報保護の問題もあります)。職場やホテルの場合でも防犯目的などの場合で、職員や宿泊者のプライバシーに十分配慮し、防犯担当者だけがモニターで確認したり、録画した映像も一定期間で消去するなどの配慮をしなければ、合法とはいえないと考えます。防犯目的か否かに関わらず、撮影される側の同意がある場合や、ライブカメラが設置されていることや映像を誰でも見ることができることなどをわかりやすく明示してカメラが設置され、写りたくない人が撮影されることを強制されていないのであれば、必ずしも違法とはいえないでしょう。
・ IDやパスワードが設定されているライブカメラの映像を保存して、自分のホームページや動画共有サイトにアップロードするのは違法か?
ライブカメラで何を撮影しているかにもよりますが、プライバシーを侵害するような画像の場合には、アップロードする行為は違法となるでしょう。プライバシーを侵害しなくとも映像に他人の著作物が混入しているような場合には、著作権者の複製権(著作権法21条)や公衆送信権(著作権法23条)を侵害することもあります。
ライブカメラを設置した人の権利を侵害するかを検討してみましょう。ライブカメラを設置しただけでは通常は写真や映画の著作物を創作したとはいえません。したがってライブカメラを設置した人物に著作権は発生していないと思われます。ライブカメラの映像は一種の生中継ですが、生中継はテレビ局が放送した場合に著作隣接権として保護されるので単なるライブカメラの設置者には著作隣接権も発生しません。したがって、ライブカメラの設置者の権利は通常は侵害されていないといえます。IDやパスワードの交付を受けた際に「映像を保存したりアップロードしてはならない」との条件が付けられていた場合には、契約に違反することになるので債務不履行責任が発生する場合はあるでしょう。
・IDとパスワードを設定していない場合、ライブカメラ映像をアップロードされても何も言えないのか?
ライブカメラの映像の中に著作物やプライバシー権を侵害するようなものが写りこんでいれば、著作権侵害を受けた人、プライバシー権を侵害された人が損害賠償を請求したり場合によっては差止請求することができますが、ライブカメラの設置者自身には特に権利が発生していません。もし、無断転用などを防止したいのであれば、規約を明示、同意させた上で利用させ、無断転用を債務不履行とするか、IDやパスワードを発行して、無断転用するような人の再利用を防止する手段くらいしかないでしょう。
憲法
第十三条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
民法
(不法行為による損害賠償)
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
著作権法
(複製権)
第二十一条 著作者は、その著作物を複製する権利を専有する。
(公衆送信権等)
第二十三条 著作者は、その著作物について、公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。)を行う権利を専有する。
2 著作者は、公衆送信されるその著作物を受信装置を用いて公に伝達する権利を専有する。
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