昔の原稿2006年4月版(Winnyによる情報流出)
2006年4月に書いた雑誌用の原稿です。ご参考までに。
なお、当時の法律等に基づいていますので現在の法律や判例、ガイドライン、解釈と異なる可能性があります。
あくまで「過去の原稿」ということをご了承ください
●Winnyによる情報流出
・Winnyで自分の個人情報が流出してしまった。どこかに訴える、あるいは相談
することはできないのか?
Winnyで流出してしまった情報は事実上回収不能ですから、流出させてしまった企業などの責任を追及することが考えられます。個人情報保護法20条は「個人情報取扱事業者は、その取り扱う個人データの漏えい、滅失又はき損の防止その他の個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置を講じなければならない。」と定めています。これに違反した場合、その企業などが認定個人情報保護団体のメンバーであれば、被害者は認定個人情報保護団体に対して苦情の解決の申出をすることができます。認定個人情報保護団体は苦情の解決の申出があった場合には、相談に応じたり、企業に対してその苦情を通知したり説明を求めたりすることができます(同法42条)。
また、国(主務大臣)は、違反を是正するために必要な措置をとるよう勧告したり命令することができます(同法34条)。この命令に違反した場合には罰則があります(同法56条)。
さらに、企業・個人を問わず、流出元は過失で個人情報を流出させてしまったのですから、不法行為責任(民法709条)を負うことになります。被害者は流出元の個人や企業に対して損害賠償を請求することができます。
・会社のPCにWinnyを入れていたせいで、会社の機密情報を流出させてしまった。罪に問われることはあるのか?
会社の機密情報は、不正競争防止法の「営業秘密」に該当する場合があります。「営業秘密」とは、①秘密として管理されている、②事業活動に有用な技術上又は営業上の情報である、③公然と知られていない、という条件を充たしているものをいいます(同法2条6項)。「営業秘密」を漏らすことについては一定の場合には罰則があります。例えば、会社の「営業秘密」を、担当者ではない社員が盗み出し、不正の競争の目的で、自分で使ったりライバル会社に開示するような場合です。あるいは「営業秘密」の取扱いを任されている担当社員が不正の競争の目的で他人に開示するような場合もあります。このような場合には5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金あるいは懲役と罰金の両方が科されることがあります(同法21条1項)。
罰則がある場合というのは「営業秘密」を使用・開示した者に「不正の競争の目的」がある場合です。機密情報を扱う社員が、ライバル会社と結託して、自分の会社の機密情報を不特定多数の人に流出させてライバル会社を有利にする目的でわざわざWinnyをインストールし実際に機密情報が流出した、という場合を考えてみましょう。この場合には「不正の競争の目的」もあるといえますから罰則の適用の可能性はあります。
ご質問のケースのように、ただ単に会社のPCでファイル交換しようと思っていたが、結果として機密情報を流出させてしまった、というような場合には「不正の競争の目的」があるとはいえませんから、罰則の適用はないでしょう。
しかし民事上の責任は別です。会社のPCにWinnyをインストールする必要はそもそもないでしょうから社員には機密情報流出について注意を怠ったという過失があります。また結果として会社の機密情報が流出して会社には損害が発生すると考えられます。したがって、社員は会社に対して不法行為責任に基づく損害賠償義務(民法709条)を負うことになります。また、会社の服務規律に違反している場合には戒告その他の制裁の対象になると考えられます。
・Winnyに流出している他人の個人情報をダウンロードして、自分のHPにアップ
ロードするのは違法行為か?
Winnyに流出している他人の個人情報をダウンロードする行為は、そもそも違法でしょうか。盗聴のように積極的な情報の取得行為とは違い、流れている情報を取得しているだけですから違法とまではいえないでしょう。では、さらに自分のHPにアップロードする行為はどうでしょうか。Winnyで取得しようと別のルートで取得しようと、自分のHPに他人の個人情報をアップロードすることは、基本的にはプライバシーの侵害となり違法となる可能性があります。ただ、例外的に①公共の利害に関する事項と密接な関係があり、②専ら公益を図る目的で、③その方法がその目的に照らして相当なものである、というような場合には違法性が阻却される可能性はあります。もっとも、通常の個人情報をHPで公開するということが①②③の全てを充たすということはなかなか難しいと思われます。個人情報といっても様々です。写真の場合には肖像権の問題などもあります。肖像権についても①②③の条件を全て充たせば違法性が阻却される場合も考えられます。
なお、個人情報保護法の個人情報取扱事業者の場合には、個人情報を取り扱うに当たっては利用目的をできるだけ特定し(同法15条1項)、さらに個人情報を取得した場合には、利用目的を公表している場合を除き、速やかに、その利用目的を、本人に通知し、又は公表しなければなりません(同法18条1項)。また、あらかじめ個人情報の本人の同意を得なければ個人データを第三者に提供することはできません(同法23条1項)。ですから、個人情報取扱事業者が取得した他人の個人データを自分のHPに勝手にアップロードすることは同条項に違反し、原則として違法ということになるでしょう。
条文
不正競争防止法
1条6項
この法律において「営業秘密」とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう。
21条1項 次の各号のいずれかに該当する者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
四 詐欺等行為(人を欺き、人に暴行を加え、又は人を脅迫する行為をいう。以下同じ。)により、又は管理侵害行為(営業秘密が記載され、又は記録された書面又は記録媒体(以下「営業秘密記録媒体等」という。)の窃取、営業秘密が管理されている施設への侵入、不正アクセス行為(不正アクセス行為の禁止等に関する法律 (平成十一年法律第百二十八号)第三条 に規定する不正アクセス行為をいう。)その他の保有者の管理を害する行為をいう。以下同じ。)により取得した営業秘密を、不正の競争の目的で、使用し、又は開示した者
五 前号の使用又は開示の用に供する目的で、詐欺等行為又は管理侵害行為により、営業秘密を次のいずれかに掲げる方法で取得した者
イ 保有者の管理に係る営業秘密記録媒体等を取得すること。
ロ 保有者の管理に係る営業秘密記録媒体等の記載又は記録について、その複製を作成すること。
六 営業秘密を保有者から示された者であって、不正の競争の目的で、詐欺等行為若しくは管理侵害行為により、又は横領その他の営業秘密記録媒体等の管理に係る任務に背く行為により、次のいずれかに掲げる方法で営業秘密が記載され、又は記録された書面又は記録媒体を領得し、又は作成して、その営業秘密を使用し、又は開示した者
イ 保有者の管理に係る営業秘密記録媒体等を領得すること。
ロ 保有者の管理に係る営業秘密記録媒体等の記載又は記録について、その複製を作成すること。
七 営業秘密を保有者から示されたその役員(理事、取締役、執行役、業務を執行する無限責任社員、監事若しくは監査役又はこれらに準ずる者をいう。次号において同じ。)又は従業者であって、不正の競争の目的で、その営業秘密の管理に係る任務に背き、その営業秘密を使用し、又は開示した者(前号に掲げる者を除く。)
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