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2015年8月 6日 (木)

昔の原稿2006年6月版(Winny通信規制 )

 

2006年6月に書いた雑誌用の原稿です。ご参考までに。

なお、当時の法律等に基づいていますので現在の法律や判例、ガイドライン、解釈と異なる可能性があります。

あくまで「過去の原稿」ということをご了承ください

Winny通信規制

 

Winnyの完全規制が憲法の「通信の秘密」に抵触する恐れがあると

 

総務省はいうが、「通信の秘密」とは何?

 

 

 

 憲法21条2項は「検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。」と定めています。これを受けて、電気通信事業法4条1項は「電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密は、侵してはならない。」と定めています。「通信の秘密」には、通信の内容、通信履歴(通信自体が存在したのか、どこからどこへの通信なのか、通信の日時や回数)など、通信を構成する様々な要素が含まれています。

 

 電気通信事業者というのは、電話会社やプロバイダのことです。電気通信事業者の取扱中に係る「通信の秘密」を侵した場合には罰則がありますし(電気通信事業法179条1項)、プロバイダの従業員などが「通信の秘密」を侵した場合には、さらに重い罰則があります(同条2項)。

 

 「通信の秘密」を侵すことは許されていないわけですが、例外がないわけではありません。例えば、電話会社やプロバイダが契約者に料金を請求する場合、苦情に対応する場合、システムの安全性を確保する場合などには通信を構成する通信履歴(「通信の秘密」として保護されます)の記録は正当業務行為として違法性が阻却されると考えられています。また、電話の場合、脅迫電話の逆探知なども是認されると考えられています。

 

 

 

Winnyの通信速度を制限するだけならOK、完全に使えなくしたらNGなどの

 

線引きはあるのか?

 

 

 

 通信の内容がWinny(あるいは類似するもの)なのかそうでないのかをプロバイダ側で判別して、完全に使えなくするということが考えられます。この場合、通信の内容(例えばパケットの内容)をプロバイダ側で調べることが「通信の秘密」を侵すということにならないのかが問題となります。

 

 リアルな世界で、郵便局員が封書やはがきの内容を見て、著作権を侵害している手紙だから宛先に全く届けないということがあるでしょうか?たぶんないでしょう。このようなことをすれば「通信の秘密」を侵害していると判断されるでしょう。同様にプロバイダの場合にも通信の内容に応じて完全に遮断するという措置は「通信の秘密」を侵すことになるでしょう。

 

 通信の内容(例えばパケットの内容)がWinny(あるいは類似するもの)なのかそうでないのかをプロバイダ側で判別して、ネットワークがダウンする可能性がある場合にトラフィックを制限するという場合(完全な規制はしない)はどうでしょうか。

 

 ネットワークがダウンしそうな場合に何らかの制限をすることは、正当業務行為として違法性が阻却されるケースがありますが、通信の内容をみることまでは必要ないので、この場合でもやはり「通信の秘密」を侵害する可能性があります。

 

 では、通信の内容をみるわけではなく、パターンなどでWinnyを検出し、完全規制を行うことはできるでしょうか。この場合にはWinny以外の通信を誤って遮断することも考えられますし、Winny上の合法なファイルな流通まで規制されてしまい、手段としては妥当とはいえません。

 

 結論としては、Winnyによってネット上の負荷が高まり、システムの安全性を確保できないような場合に、通信の内容ではなくパターンなどでWinnyを検出し、例外的にトラフィックの制限(完全には遮断しない)をするような場合には正当業務行為といえるでしょう。

 

 

 

Winny使用を規制するプロバイダは増えているが、

 

今後規制がなくなる可能性はあるのか?

 

 

 

 Winny使用を規制する目的は二つに分けることができると思われます。

 

① 著作権を侵害したりプライバシーを侵害するファイルの流通、ウィルスの流通といった、いわゆる違法なファイルの流通を防止する目的。この目的は、著作権などの権利者保護、利用者がウィルスに感染することを防止する利用者保護、プライバシーや個人情報・営業秘密などの主体(個人や会社)の保護という目的があるといえます。

 

② Winnyの利用によってトラフィックが増大しネットワークが混雑している状態を引き起こし、プロバイダがネットワークを安定的に提供することができない、という事態を防止する目的。

 

 ①の目的は不当な目的であるとはいえませんが、通信の内容に係わらず通信サービスを提供しなければならないプロバイダにとっては、通信の内容で差別するような目的を設定するには少し問題があるように思われます。

 

 ②の目的は通信サービスの安定的な提供というプロバイダにとっても利用者にとっても基本的に重要な内容を目的としていますので合理性が高いものと考えられます。

 

どちらの目的だとしてもWinnyによる通信を「完全規制」することは、「通信の秘密」の侵害の問題が残ったり、Winnyを合法的に使用しているユーザの通信も遮断してしまうおそれを除去できないこと、Winny以外の通信を誤ってWinnyと判断し規制の対象になってしまう可能性があること、などから問題があるといえます。

 

少なくとも②のようにネットワークの安定的な提供を図ることは今後も重要といえますから、プロバイダがWinnyと判断されるトラフィックを一部制限するといった一定の規制は正当業務行為と認められるでしょう。Winnyのトラフィックが減少しない限り、今後規制がなくなるということはあまり考えられません。

 

 

 

条文

 

電気通信事業法

 

(検閲の禁止)

 

第三条  電気通信事業者の取扱中に係る通信は、検閲してはならない。

 

 

 

(秘密の保護)

 

第四条  電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密は、侵してはならない。

 

  電気通信事業に従事する者は、在職中電気通信事業者の取扱中に係る通信に関して知り得た他人の秘密を守らなければならない。その職を退いた後においても、同様とする。

 

 

 

第百七十九条  電気通信事業者の取扱中に係る通信(第百六十四条第二項に規定する通信を含む。)の秘密を侵した者は、二年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。

 

  電気通信事業に従事する者が前項の行為をしたときは、三年以下の懲役又は二百万円以下の罰金に処する。

 

  前二項の未遂罪は、罰する。

 

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